結果よりアイデアを重視したエリート集団 :『エンロン崩壊の真実』から

コロナ後、私たちは毎日のようにテレビで、売り上げに苦しむ飲食店、宿泊業者、デパート、バス会社、航空業界等の苦境を目にするようになった。

私たちは、売り上げの大事さと、売り上げがもたらすキャッシュの有難さを、改めて知ったのだ。

ところが、かつて収益の実体がないまま、売上と利益を上げ続ける会社が存在した。

売上高全米7位、世界16位の巨大企業エンロンだった。

エンロンは破綻した。

 

 

エンロンが破綻に至る道は、本も出版され、ドキュメンタリー映画も制作されているが、きわめて複雑でわかりにくい。

 

私は、エンロンは、結果よりアイデアを重視したエリート集団だったと考える。

 

そこには、私たちがビジネスで考えなければならない問題が存在する。

 

 

エンロン崩壊の真実

 

 

エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?(DVD)

 

エンロン破綻の特徴を考えてみたい。

 

登場人物と関係者が非常に多い

 

エンロンでは、ケネス・レイ(会長、最高実力者)、ジェフリー・スキリング(マッキンゼー出身のCEO)、アンドリュー・ファストウ(CFO 最高財務責任者)による3頭政治が行われていたという。

 

しかし、エンロンの破綻を振り返るとき、レベック・マーク(エンロン・インターナショナルの会長兼CEO インド・ダポール発電所プロジェクトの交渉で名を上げる。水道事業アズリックスの会長兼CEO)、シャロン・ワトキンズ(証言者 ケネス・レイへのメモが世間に知られる)、ジョン・クリフォード(副会長 自殺?)をはじめ、出演人物が非常に多いことに気づく。

 

レイ・スキリング・ファストウの三人の周りを軌道のごとく回っていた人たちが多くいたということだ。

 

さらに、エンロンの監査を担当していた世界5大会計事務所の一つであるアーサー・アンダーセンも粉飾決算や証拠隠滅に関与していた。
(その後、信用は失墜し、2002年に解散)

 

出演人物が一堂に会したならば、おそらく劇や映画の出演者より多いだろう。

普通、企業や組織の不正といえば、限られた人や組織によるものだが、エンロンの場合は、なぜ出演者が多いのだろうか?
それは、エンロンがあらゆるトレーディングに参画しようとしたことと密接に関係がある。

 

破綻の発端

 

2001年、フォーチューン誌に「エンロンの株価は高すぎるか?」と題する記事が掲載されたことが発端となった。

その後、決算内容に疑念がもたれ、エンロンは何度も決算書を修正したが、その結果、エンロンは高収益でなかったどころか、収益がまったくなかったことが判明した。

 

エンロンの利益は実際の金額として実現していないことが明らかになったのだ。

 

実現していない利益

 

実際の金額として実現していない利益とは、どういうことだろうか?

キャッシュが伴わない利益ということだ。

それは会計上の利益ということであり、それも操作され生み出された利益ということである。

負債はどう処理したのだろうか?

簿外として、ファストウが考案した特別目的事業体(SPE)に付け替えらたのだ。

エンロンの破綻は、極論すると、この二点に集約される。

 

変革したエンロン

 

エンロンは元々、パイプラインを使った天然ガスの輸送を業としていた。

 

規制緩和により、積極的にデリバティグを取り入れた天然ガスや電力などエネルギーのトレーディングに傾斜し、その後、排出権から金属、パルプ、紙、その他特殊な化学製品など産業用の商品に至るまで、取引可能なものなら何でも新しいマーケットを作った。
(この構造改革を推進したのはスキニングと目されている)

 

エンロンは自社の業務をオンラインに移行していったが、これらの取引ではすべて、一方の相手方(売り手or買い手)となった。
それゆえ、表面上の売上が拡大したのだ。

 

その他、エンロンはブロードバンドマーケット、水道事業などにも進出し、インド・ダポールに世界最大規模の天然ガス燃焼式発電所を建設する。

 

 

エンロンの背景にある思想

 

エンロン崩壊の真実』の著者は、ボストン・コンサルティングが作った「製品ポートフォリオ」(市場成長率と相対的市場占有率のマトリクス)の四つマス目である「現金を生む牛(Cash Cows)」「スター(Star)」「負け犬(Dogs)」「問題児(Ploblem Children)を基に、興味深いことを述べている。

 

ジェフリー・スキリングがとった道に対する記述だ。

次のように述べている。

「エンロンが勢力争いをしていた競争の激しい産業では、キャッシュ・カウを新たに見つけることはほとんど不可能に近かった。
市場価格に対する支配力はほとんどなく、油田やパイプラインなどハードアセットへの投資もまた”ドッグズ″に属する運命にあった。
コンサルティング会社と同様、現金を稼ぐのは『人』であり、また、『知的財産』として知られているそれらの人たちのアイデアだった。
エンロンの場合、その商品は『マーケット』であり、天然ガスのマーケットをモデルにして、できるだけ多くの商品のマーケットを創造することが同社に利益をもたらす仕組みだった」

 

すなわち、スキリングが大事にしたものは、アイデアだったということだ。

 

現実を振り返ると、ダポール発電所プロジェクトに代表されるように、エンロンが手掛けた事業のほとんどは収益を生み出すことができなかった。

 

 

このことについて、貴重な著述がある。
ダフ・マクドナルドが書いた『マッキンゼー』のなかの記述だ。

 

なぜこの本に記述があるかといえば、エンロンのCEOであるジェフリー・スキリングはマッキンゼー出身であり、マッキンゼーはエンロンのコンサルティング会社だったからだ。

 

本によれば、エンロンが破綻するまで、エンロンはコンサルティングとほかの専門サービスを合わせて、マッキンゼーに、年に7億5000万ドル以上を支出していたという。

 

この本の記述を見てみたい。

 

エンロンを批判するものがあらわれて、会計手法に疑問を呈するようになると、マッキンゼーはいままで以上に熱烈な指示を表明した。

その声明内容に対して、著者は「この声明内容は不可解だ。― 実際にしていることではなく、したいと思っていることが重要だと言っているのだ。エンロンでは最後に概念が現実に勝利するという、まさにマッキンゼーのコンサルタントが夢見ていた結果になった」

 

「スキリングがマッキンゼー同様実行に興味を持たなかったため、次から次へと新しいビジネス・アイデアへ進んでいく際に、壮大なビジョンを実際に達成できるのかを見極める経営幹部が誰もいないという状況に陥った」

 

(文脈もあるので、ぜひ、原著を通読することをおすすめしたい)

 

マッキンゼー

『マッキンゼー』

 

 

『エンロン崩壊の真実』と『マッキンゼー』が述べていることはほぼ同じだ。
スキリングが大事にしたのはアイデアだということだ。

 

なぜスキリングがアイデアを重視したかについては、『エンロン崩壊の真実』に記載されている。
(前述の「ポートフォリオ」のくだりだ)

 

また、アイデアを出すこと自体は別にとがめられたことではないが、そのビジョンを達成する実行役である経営幹部がいなかったも、前述のとおり、『マッキンゼー』に記載されている。

 

エンロンの破綻はけっしてスキリングだけのせいではない。
従業員をあざむき続けたレイ、何よりも特定目的事業体を考案し着服もしたファストウなどの経営幹部によるところも大きい。

 

しかし、スキリングが結果よりアイデアを重視したこと、経営幹部も結果に執着しなかったことも、たしかだと思うのだ。

 

いわば、エンロンは稼ぐことを忘れた集団だったのだ。

 

私たちへの教訓

 

稼ぐためには、実体も、結果を出そうとする努力も必要なことを示したのが、エンロンの破綻だったと考える。

 

至極当たり前のことだが、ときとして、私たちは忘れることはないだろうか?

アイデアに心を奪われ、そこに稼げる実体が存在するのか、忘れることはないだろうか。

 

アイデアだけでは、企業は利益を生み出せない。

アイデアだけで勝負しようと思えば、必ずエンロンと同じ道を歩む。

 

アイデアを出すことは重要だ。

しかし、そのアイデアで稼げるかということが、もっと重要なのだ。

エンロンの破綻は、このことを、私たちに問うている。

 

 

 

 

エンロンの崩壊については、『エリート社員に打ち勝つ! あなただけの出世術』でも取りあげました。

エリートたちの意見は本当に正しいのか? ー「自分たちの中」では

 

 

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2021年3月4日