『問いかける技術』

シャイン博士の著書のなかで『人を助けるとはどういうことか』『謙虚なコンサルティング』、そして今回紹介する『問いかける技術』が有名だが、発刊年月順に読むと理解しやすい。
発刊年月を追うと、『人を助けるとはどういうことか』は2009年、『問いかける技術』は2014年、『謙虚なコンサルティング』は2017年(いずれも日本での発刊日)発刊だが、年月の間に博士の理論の展開がある。
『問いかける技術』は『人を助けるとはどういうことか』に記載されていた「謙虚に問いかける」という概念を抽出したものであり、『謙虚なコンサルティング』は『問いかける技術』に記載されていた人間関係に焦点を当てている。

 

シャイン博士の著書には、自分が話すのはワンアップ(立場をあげること)、質問をするのはワンダウン(立場を下げること)という記載がたびたび登場する。
じつは、このことが、博士の著書の根幹にある。
なぜ、質問することは立場を下げることになるのだろうか?
このことについて、『問いかける技術』のなかで、シャイン博士は「自分が知りたかったこと、あるいは知る必要があることについて、相手はなんらかの情報を持っているのだということが示唆される」からだと述べている。

 

それゆえか、上司と部下との関係では、だいたい上司は話す人、部下は聞く人という図式になっている。
その背景には「自分が動き、自分が話す文化」がはびこり、意見を主張できる人が有能とみなされていることがある。

 

しかし、「自分が動き、自分が話す文化」は、いやま成り立たなくなってきている。
博士の言葉を借りれば、仕事の複雑さが増し、文化的多様性が広がっている昨今、従来のように地位や立場によって人とあいだに境界を定めるというやり方は維持できなくなってきているからである。

 

 

『問いかける技術』には仮想の外科チームが登場する。
英国の病院で、執刀医は英国貴族の家に生まれたブラウン医師、麻酔医は現場研修のために日本から着任した田中医師、器具の受け渡しを担当するのはアメリカ人のエイミー、外科技師はロンドンの労働階級出身のジャック。
こんなメンバーでブラウン医師は手術の成功と患者の安全を確実にするために、部下を頼りにしないでやっていけるだろうか?
部下を頼りにしていることを認めることが必要なのだ。相互に依存し合っていることに気づく必要がある。

 

相互に依存しあっているのが、いまの社会である。
いまの社会にあって必要なものは、この本のテーマである「謙虚に問いかける技術」だ。
この本では「『謙虚に問いかける』は、相手があなたに心を許してくれるようになったり、あなたがまだ情報を持っていないことについて誰かに質問したり、その人に対する興味と好奇心に基づいて付き合いを深めたりするための技術であり、流儀である」と述べている。

 

つまり、いまの社会にあっては、自分を、質問するという一段低い立場(ワンダウン)にさらさなければ、必要な情報を得られないし、仕事も組織も回っていかないのである。

 

「問いかける技術」の効果はそれだけではない。
行動に移す前に「謙虚に問いかける」ことにより不運な結末を回避することができる。
この本には、ドアをノックした娘に向かって、その意図を尋ねることなく、勉強の邪魔をしたと言って大声で叱ってしまった父親の例が載っている。
私たちもそんな例を多く経験しているはずだ。

 

「謙虚に問いかける」ことは、誤解や判断ミス、そして不適切な振る舞いをしてしまうことを、最小限に留めることができる。
それは、「自分が行動してしまう前に実際になにが起きているのかを探り出せる可能性が、質問することによって高まるからだ」とシャイン博士は述べている。
また、「謙虚に問いかける」ことにより、質の高い情報も集まる。
「謙虚に問いかける」ことは良好な人間関係を築ける原理・原則なのである。

 

 

巻末の解説のなかに「日本人にとっての『謙虚に問いかける』」という興味深い箇所があった。
日本文化は、元来、課題の遂行よりも人間関係を優先し、自分が一方的に「話す」よりも「問いかける」傾向を備えていたのではないかということである。
それが、いつしか、解説者の言葉を借りれば、「グローバル化への対応といったかけ声のもと、対決的な議論に打ち勝つためのディベートのスキルや、理詰めで相手を説得する交渉術、プレゼンテーションのスキルなど『話す力』を重視する傾向がかなり強まった」のだ。
それは外資系コンサルの登場でいっそう推進、加速されていったものではないだろうか。
しかし、その手法は、さまざまな文化を持っている人が集まっている組織や社会では、もはや成り立たなくなっている。
そのことを本家本元であるアメリカで議論されているところが、興味深い。

 

 

問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる

 

 

 

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