2024.07.15更新
私たちは漢字を多く知り、使えることが知識だと思っている。たしかに、ひらがなばかりの文章は変だ。
だが漢字を知っていても、あえて使わない人もいる。
漢字を使えることが知識?
なぜ、使わないのだろうか?
漢字を使わない人の心理は。
じつは、私は長い間漢字との戦いを繰り返してきた。
私が歩んだ道は、きっと参考になると思う。
私は小学生や中学生のとき、進級するたびに新しい漢字を覚えることが楽しかった。
その後も小説などで新しい漢字を発見すると、使いたくなった。
漢字を覚えるたびに自分の知識が膨らみ、ひと回り大きくなったような気さえした。
大学生のとき、漢字使用の頂点を迎えた。
法律の本が漢字いっぱいだったこともあり、「しかし」を「然し」とまでに書くようになっていた。
それから、ビジネス書を読むようになってから、「なぜ、ひらがなばかり使っているのだろう」と思うようになった。
ところが、自分が本を書くことになり、校正用に講談社校閲局編集の「用字用語集」を買い、本を開いた瞬間、目をむいた。
私がいままで漢字にしていたものは、ひらがな書きが望ましいのだ。
私はいままで、副詞や副詞的につかう語では、「更に、一層、一旦、全て、既に、全く」などは、迷わず漢字で書いていた。
接続詞の、「或いは、併せて、及び、且つ、従って、但し、並びに」なども漢字で書き、
形容名刺の、「~する上で、~する度、~する為、~の通り」も、もちろん漢字を使っていた。
だが、それらは、ひらがな書きが望ましいのだ。
私のひらがな変換作戦はここから始まった。
いままで漢字にしてきた文字をひらがなに替えるということは、たいへんな苦痛を伴う。
その文字は頭に漢字でインプットされているから、つい漢字を使ってしまう。
また、自分がいままで漢字にしてきた文字をひらがなに置き換えると、妙に間が抜けて見える。
辛抱に辛抱を重ね、ひらがなへの変換を図った。
それでも、私の文章はどちらかと言えば漢字が多いほうだ。
恥を忍んで、私の経験談をお話ししたが、
詰まるところ、文章は相手が読みやすいということがいちばんなのだ。
漢字いっぱいの文書と、漢字の使用を抑えた文書、二つ並べて見てもらいたい。
その差は歴然だ。
漢字いっぱいの文章は、見た瞬間、読むのが嫌になってくる。目にやさしくない。
それは、読み手にもやさしくないということだ。
読みやすいのはどちらか?
ビジネスマナーの本には、文書の書き方や例が多く載っている。
それも大事なことだが、いちばん重要なことは読みやすいということだ。
ビジネスマナーの精神は、気づかい、思いやりだから、上手な文章を書くことよりも、読みやすい文章を書くことがその精神にあっている。
ひらがなを使っているうちに、ひらがなを使う意味を再確認できる瞬間もやってくる。
たとえば、「受けいれる」という言葉がある。
「うけいれる」をワープロで変換すると、「受け入れる」と出てくる。
しかし、人の意見を「うけいれる」という意味で使うときには、言語感覚の鋭い人は、「受け容れる」ではないかと思う。受容という言葉があるからだ。
私も、漢字で書けと言われれば、「受け容れる」と書く。
だが、「受け容れる」と書くと、文自体が重くなる。
ここで、ひらがなの登場だ。
ひらがなで書く限り、ぜったいに間違いにはならない。
こんなとき、私は、「受けいれる」と書いている。
同様にして、A案とB案があり、A案を採用するときに、「A案をとった」と表現するときがある。
このときも、「A案を取った」と書くには抵抗感がある。
採用したのだから、「A案を採った」と書きたくなる。
だが、「A案を採った」では、文は重くなるし、なにか変だ。
こんなときも、「A案をとった」と私は書くようにしている。
また、「目に止まる」「目に留まる」、どっちだ? というときも、「目にとまる」と書いている。
「迷ったときはひらがな」と考えることも必要だ。
あなたには、一度、上席の人が書いた文書をじっくり観察してもらいたい。
あなたが書いている文書より、ひらがなが多いはずだ。
私も35年間多くの人が書いた文章を見てきた。
その後もビジネス書やブログなどを読み続けている。
「ひらがな」の使用という観点で文章を読んでみると、「あっ、この人、あえて漢字を使わなかったな」と思う箇所に必ずぶつかる。
そんなとき、その人の見えない気づかいのようなものを感じる。
同時に、漢字を知っているのに、あえて使わないその人の素養のようなものまで窺い知る。
あなたの上席も、そんな視点であなたが書いた文書を見ている。
「ひらがな」を使えば使うほど、評価が上がることは事実だ。
綾小路 亜也
「ひらがな」をつかえばつかうほど、評価が上がる から
あなたの文書はどっちか?
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