『おかあさんとあたし。』という本がある。
自分が小さかったころを思い出して、きっと泣きだしてしまう。
本の表紙に書かれているヒトコマ、ヒトコマを、自分もやった。
・「あたしが、ハイっていったらうたって」
・押入れを片づけているおかあさんを見て、「なにしてんの」と聞いた。
・干したばかりの布団の上に、「いいにおい」と飛び乗った。
・掃除機の吸入口を自分のほっぺに当ててもらった。
・冷蔵庫の中を、いつまでも、ごちょごちょやって、おかあさんから「はやくしめて」と言われた。
そのほか、この本に出てくること、すべて自分もやった。
・扇風機に向かって、「おーかーあーさーん」と言ったら、声が振動した。
・こたつの上で、歌った。
・新聞紙を整理するおかあさんに、「(広告の)うらがしろいのとっといてね」と言った。
・「あのねー んっとさ えっとさ きょうねぇ、えっとねぇ、んーっと、なんだっけ」と、話すことがわからなくなった。
・ぬいぐるみを背中にしょった。
・なかなか布団から出ないで、おかあさんから、コチョコチョくすぐられて起きた。
・おかあさんに片手を握ってもらって、「いち、にの、さーん」でジャンプした。
・「これ おふろにいれてもいーい」と聞きにいった。
・「いーい みてて」と言って、水たまりを飛びこえた。
・ジョーロを手にするおかあさんに、「やりたい」と言った。
・「めーつぶって、てーだして」とおかあさんに、なにかを握らした。
・「ねー だーれー だーれー だあれー」と電話で話しているおかあさんに聞いた。
・「まって やっぱ これももっていく」と旅行に行くときに言った。
・「なんて かいたかー」とおかあさんの背中に文字を書いた。
・「おっきくなったら、なんでも買ってあげるからね」とおかあさんに言った。
・「この山をのぼってみましょう」と、おかあさんのスカートに人形を登らせた……。
すべてがおかあさんに向けられていた。
だから、「みてて」「きいて」と言った。
なんでもない日常の一瞬に、おかあさんがいた。
おかあさんの「におい」もしたし、おかあさんの「音」もした。
それは、感触の世界だったように思う。
エッセイ『浅草のおかあさん』は、この本が原点でした。
昭和の時代から平成の時代にかけて、「浅草のおかあさん」と呼ばれた一人の女性がいた。
なぜ、その女性は「浅草のおかあさん」と呼ばれたのだろうか?
浅草の子供たちは、「浅草のおかあさん」を見ながら大人になった。
子供たちが見たものはなんだったのだろうか?
(『浅草のおかあさん』書き出し から)
(参考)
『おかあさんとあたし。』は①と②がありますが、①と②が一緒になった本がおすすめと思います。
浅草に「浅草のおかあさん」と呼ばれた女性がいました。