『承認欲求の呪縛』:日本型共同社会の呪縛から逃れるために

2022.04.29更新

 

ある民間の病院で、毎年、最も模範となるような看護師や職員を院長が選び、MVP(最優秀職員)として表彰し、かなり高額な賞金も贈られたという。

ところが、受賞者の多くが受賞後短い期間にやめていったという。
なぜだろう?

 

「期待に応えなければいけない」というプレッシャーが、それ以上働き続けるのを困難にするほど大きかったからである。

 

「期待に応えなければならない」と考えるのは、大きな名誉や名声を得たアスリートたちも同じである。
彼らも、認められ賞賛されたがゆえに、これからも期待に応えなければならないというプレッシャーを強く持つ。

 

人はいったん得た評価をなかなか手放せない。
承認によって得られたものの多くは、承認されなくなったら失われるからである。

 

 

承認欲求は有形無形のさまざまな報酬とつながっている。

たとえば、人から認められると、発言力や影響力も大きくなり、大きな仕事、やりたい仕事ができるようになる。
人を支配したいという支配欲や異性を引きつけたいといった欲望もある程度満たせる。
いろいろな形で金銭もついてくる。それにより衣食住に関わる生理的欲求や安全・安定の欲求も充足できる。
また社会的に認められることで、自己実現の欲求も実感できる。

著者が「承認欲求は最強」というゆえんである。

 

しかし、獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになると、そこから容易に逃れられない。

これが「承認欲求の呪縛」である。

 

組織で起きる不祥事にはまさにこのような背景が存在していると思う。

 

 

プレッシャーは「認知された期待」と自己効力感のギャップが大きいほど、そしてギャップを強く意識すればするほど大きくなる。
著者は「認知された期待」「自己効力感」「問題の重要性」を呪縛の三要素と呼び、
プレッシャーの大きさ、すなわち「承認欲求の呪縛」の強さを次のとおり定式化している。

(認知された期待ー自己効力感)✕問題の重要性

 

(注)
認知された期待:本人が意識している期待
自己効力感:「やればできる」という自信
問題の重要性:期待に応えられそうにないことを本人がどれだけ深刻な問題として意識しているか

 

 

この本の最大の魅力は、日本型共同社会における承認欲求をうまく表している点にある。

第三章には、パワハラ、隠蔽、過労死など「呪縛」の不幸な結末が書かれているが、いずれも日本型共同社会を背景にしている。

 

著者はそのなかでこう述べている。

「もっと認められたい、注目されたいという積極的な承認欲求よりも、いったん獲得した評価や評判を失いたくなという消極的な承認欲求のほうが強い執着をもたらすこと。とりわけ苦労して獲得した評価や評判ほど、執着も強く、ときには正義感や倫理観さえ制圧してしまう」

まさに「承認欲求の呪縛」である。

 

「上からのプレッシャーにしても、ノルマや目標にしても、達成できなかった場合に失う最大のものは上司からの、あるいは社内における暗黙の信頼や評価である。それが軽視できないのである。
とくに日本の場合は、会社組織が共同体のような性質を帯びているため、そのなかでの信頼や評価は本人の人格的な尊厳にまで関わる」

 

不祥事が起きる背景が浮かび上がってくるような記載である。

 

 

日本型共同社会は濃密である。

大部屋主義で個人の仕事の分担が明確に決められていないし、評価基準も曖昧である。

この点について、著者はG・C・ホーマンズ、P・M・ブラウなどの「交換理論」を用い、次のように述べている。
「会社のため、上司のために貢献をして、認められれば、人事評価や将来の昇進、人事異動で有利な扱いをしてくれるかもしれないと心のなかで期待する。逆に残業せずに早く帰ったり、休暇をめいっぱい取ったりすると、人事に響くのではないかと考える。
(中略)
もちろん、ふだん残業するとき、休暇の取得をためらうとき、それが具体的に何につながるかを考えることはないだろう。しかし、ぼんやりした損得計算が潜在意識のなかにあることは否定できない」

「ぼんやりした損得計算」ー非常にうまい表現だが、そんなものを組織にいる日本のビジネスパーソンはたしかに持っている。

 

 

そんな承認欲求からくるプレッシャーを軽減する方法はあるのだろうか?

答えは先に述べた プレッシャーの大きさ=(認知された期待ー自己効力感)✕問題の重要性
という定式にある。

 

すなわち、認知された期待と問題の重要性を下げ、自己効力感を上げればいいことになる。

認知された期待に対しては、著者は「とるべき対策のポイントは大きくなりすぎる期待を自らコントロールして、自分のキャパシティーに見合った水準まで下げることである」と言う。

その一例として、タクシーの運転手や、歩合給で働く保険会社・証券会社の外務員などのように、成果に応じた報酬を受け取る自由を紹介している。

 

「問題の重要性」を下げるには、問題を相対化できるかどうかがポイントであり、目の前の目標よりはるか先に目標を置くことによって、目の前の目標を相対化すればいいと述べている。

 

「自己効力感」を高めるには、異質性が不可欠であり、そのために周囲との競合を避け、同一次元で勝負しない例を挙げている。

 

 

マズローは承認欲求を基本的欲求の一つとしている。

すなわち、承認欲求は人間として正常な欲求であり、健全な人間になるために必要な欲求なのである。
しかし、人に依存しなければならない欲求でもある。
それゆえ、いままで承認欲求をいかに充足するかに目が向けられてきた。
だが、他者へ承認を求めている主体は自分である。
ということは、自分でコントロール可能な欲求ともいえる。
現実には非常に難しいことだが、これからの時代、考えていかなければならないことだと思う。

 

また、他者への承認を求めている限り、どこまで行けば満足できるかはわからない。
果てしない満足を追い求めていきそうなことは容易に想像できる。
マズローがいう「自己実現」も、同時に考えていかなければならないのだと思う。

 


「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)

『「承認欲求」の呪縛』表紙

 

目次

第1章 「承認欲求」最強説

第2章 認められたら危ない

第3章 パワハラ、隠蔽、過労死……「呪縛」の不幸な結末

第4章 「承認欲求の呪縛」を解くカギは

 

 

 

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