マズローの「欲求5段階説」の原著 :『人間性の心理学』

2023.11.09更新

 

広く知られているマズローの「欲求5段階説」。

だが、マズローの代表的な著書である『人間性の心理学』は細かい字でびっしり書かれた500ページにも及ぶ大著であることは意外に知られていない。

 

欲求の5段階のうち、生理的欲求ー安全の欲求ー所属と愛の欲求ー承認の欲求までは頭に入りやすい。

その上にある自己実現の欲求も、文字からなんとなくわかった気になるが、自己実現とは何だろう?

自己実現について、本に書かれていることを紹介する。

 

人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ

『人間性の心理学』マズロー

 

マズローは、自己実現について、こんなたとえ方をしている。

 

木がその環境から養分、日光、水を取り入れる必要があるのと全く同様に、人もその社会的環境から安全、愛、承認を得ることが必要である。
木は皆、日光を必要とし、人は皆、愛を必要とする。しかも、いったんこの必要不可欠なものに満足すると、木も人も、この普遍的なものを自分自身の個人的目的に役立て、自分流の独自の発達を生じさせるのである。(P199)

 

後段の自分流の独自の発達を生じさせることが、自己実現である。

自己実現するためには、生理的欲求~承認欲求までを充足する必要があることも示している。

欲求の段階を唱える意味がここにある。

 

 

マズローは、こんなたとえもしている。

 

人は、自分に適していることをしていないかぎり、すぐに(いつもではないにしても)新しい不満が生じ落ちつかなくなってくる。自分自身、最高に平穏であろうとするなら、音楽家は音楽をつくり、美術家は絵を描き、詩人は詩を書いていなければなならない。
人は、自分がなりうるものにならなければならない。人は、自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲求を、自己実現の欲求と呼ぶことができるであろう。(P72)

 

 

そして、次に述べる言葉が、自己実現の核心をとらえている。

この言葉は(注 自己実現のこと)、人の自己充足への願望、すなわちその人が潜在的にもっているものを実現しようとする傾向をさしている。
この傾向は、よりいっそう自分自身であろうとし、自分がなりうるすべてのものになろうとする願望といえるであろう。

 

 

もっと違った切り口で、自己実現を理解する方法はないか?

 

じつは、生理的欲求~承認の欲求と自己実現の欲求には大きな違いがある。

前者には他人が必要なのだ。

 

マズローはこう述べる。

 

欠乏に動機づけられている人々は、他の人がだれか自分に尽くしてくれないと困るのである。
というのは、彼らの欲求の主なもの(愛、安全、尊敬、名声、所属)は、他の人間によってのみ満たされるからである。(P243)

 

生理的欲求~承認欲求までは他人を介さないと満たされない欲求に対し、自己実現は述べてきたとおり、自分自身であろうとし、自分がなりうるものになろうとする願望だから、他人は必要ないのである。

 

 

さて、マズローはなぜ、欲求段階説を唱え、自己実現に注目したのだろうか?

 

このヒントも本にある。

マズローはこう述べている。

 

基本的欲求がどの程度満足されたかということが、心理的健康の程度と正の相関関係をもっていると思われる。(P103)
神経症的な有機体とは、他者からのみもたらせる基本的欲求の満足を欠いているものことである。
それ故、他者に対してより依存的であり、自律性や自己決定が少ない。すなわち環境の性質により形成されることが多く、自信の本質的性質により形成されることが少ないのである。

 

自己実現者は心理的健康者なのだ。

 

 

以上見てきたことから、どんなことが言えるだろうか?

 

自己実現するということは、ただ一人の自分がいるということではないだろうか。

自分で自分を追いかけることから、自己実現の欲求は他の欲求ーすなわち欠乏動機ではなく、成長に動機づけられたものなのだ。

そして、どのように追うかといえば、自分がもっている潜在的なものを追うことではないだろうか。

それは自分の可能性を、自分の存在を追うということである。

 

 

目次

第1章 科学への心理学的アプローチ

第2章 科学における問題中心的傾向体手段中心的傾向

第3章 動機づけ理論序説

第4章 人間の動機づけに関する理論

第5章 心理学的理論における基本的欲求満足の役割

第6章 基本的欲求の本能的性質

第7章 高次の欲求と低次の欲求

第8章 精神病理の発生と脅威の理論

第9章 破壊性は本能的なものか

第10章 行動の表出的要素

第11章 自己実現的人間ー心理学的健康の研究

第12章 自己実現的人間における愛

第13章 個人と人間の認知

第14章 動機づけられていない無目的な反応

第15章 心理療法、健康、動機づけ

第16章 正常、健康、価値

付録A 心理学への積極的アプローチによって生まれる諸問題

付録B 人格研究の全体的ー力動的理論

 

 

 

 

(参考)じつは「人間性」という言葉が付いた、有名な本がもう一冊あります。

「動機づけ-衛生理論」を打ち立てたハーズバーグの本です。

 

仕事と人間性

『仕事と人間性』ハーズバーグ

 

本の紹介記事はこちらをご覧ください

 

 

 

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