人間はアダムとアブラハムに帰結する :『仕事と人間性』から

2023.06.03更新

 

まず、『仕事と人間性』の本の位置づけについて言及しておきたい。

 

『仕事と人間性』は、職務態度に関する著者三部作の三番目の書物にあたる。

著者は前作『仕事への動機づけ』で実証研究を行い、職務にたいする人々の感じ方について仮説を立てた。

それが、世に知られた「動機づけ-衛生理論」である。

 

しかし、調査対象者がピッツバーグの技師と会計士200人に限定されていたために、追加実証が必要だったのである。

さまざまな研究者が追加実証をおこなったが、ハーズバーグの仮説は立証された。

追加実証などをもとに、「仕事と人間性」に関する一般理論として拡大されたものが、本書である。

 

ハーズバーグの「動機づけー衛生理論」は実証研究に裏打ちされた理論なのである。

 

 

仕事と人間性

『仕事と人間性』表紙

1968年発行の本ですが、Amazonマーケットプレスで購入できます

 

 

ところが、本書では、「動機づけー衛生理論」になかなかたどりつかない。

 

1.ビジネスー現代の支配的制度、2.アダムとアブラハム、3.産業界の人間概念、4.人間の基本的欲求 5.精神的成長を経て、ようやく、6.動機づけー衛生理論にたどり着く。

 

 

これは、本書が研究の集大成的意味あいを持つからだと思うが、「動機づけ-衛生理論」は人間性の研究結果として生まれた理論であり、人間性をめぐる解釈と変遷の記述は不可欠だったのだと思う。

 

 

特に、アダムとアブラハムは人間性を考えるときの大元になるものであり、「動機づけー衛生理論」に直結している。

 

すなわち、エデンの園を追われたアダムは、人間が持つ基本的性質の一つである回避的性質の象徴であり、不快さの回避に関する欲求を持っていることから、衛生要因につながっている。

 

一方、神から「完全なものになれ」といわれたアブラハムは、人間が有能であり、生得の潜在能力を持っている象徴であり、成長ないし自己実現にたいする欲求を持っていることから、動機づけ要因につながっている。

 

すなわち、人間はアダム的要素とアブラハム要素の両方を基本的性質として持っているのである。

 

 

エデンの園を追われたアダム

 

6の動機づけー衛生理論は、著者の2冊目の書である『仕事への動機づけ』で明らかにされた理論である。

前述したピッツバーグの技師と会計士への面接調査で判明したことである。

 

 

少し「動機づけ-衛生理論」をおさらいしてみよう。

 

職務満足の決定要因は、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進

不満要因は、会社の政策と経営、監督、給与、対人関係、作業条件

であり、不満要因は満足につながることはなく、仕事の内容のみが仕事への動機づけになるという理論である。

 

6の動機づけー衛生理論に続くものは、7.動機づけー衛生理論の実証、8.動機づけ-衛生理論の追加実証、9.どうすればいいか であり、『仕事への動機づけ』で示された「動機づけ-衛生理論」が裏づけられたことを示している。

 

その実証をまとめたものが本書ということになる。

 

 

 

動機づけ要因と衛生要因が何を意味しているのか、もう少し見ておこう。

 

動機づけ要因である、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進は、著者の言葉を借りれば、「すべて人間のかれがおこなっているものへの関係づけ」を表している。

 

それは、課業の達成を通じた自己充実ないし精神的成長への接近に関連している。

アブラハム性(人間的欲求)を示している。

 

一方、衛生要因である、会社の政策と経営、監督、給与、対人関係、作業条件は、本質的に環境(周囲の条件)を表していて、主として職務不満を防止する役目をしている。

 

なぜ、これらの不満要因を衛生要因と呼ぶかといえば、医学的用法が「予防と環境」を意味するのにならったという。

 

それは、環境から発生する痛みの回避に関連している。アダム性(痛みを回避する動物的欲求)である。

 

 

人間は、アブラハム的欲求とアダム的欲求、両方を持っている。

著者は「人間は痛みを回避する動物的欲求と、精神的成長すべき人間的欲求を同時に満たそうとつとめることによってはじめて、幸福になることができる」と述べる。

 

しかし、こうも述べている。

「人間はこの世で得られるあらゆる衛生的報酬を知る権利がある。これは正常かつ望ましい結果である。重要な点は、物質的報酬の目的がアダム的目標を満たすことにあるのを人間が忘れるときには、かれは自分のアブラハム的性格に敬意を失い、それを傷つけると言うことである。」

 

これこそが、「動機づけ-衛生理論」で著者が言いたかったことではないだろうか。

 

企業やリーダー、そして従業員自身が忘れてはいけないことである。

 

 

『仕事と人間性』は1965年に書かれ、日本では1968年に出版された。

それから、なんと半世紀以上の月日が流れている。

 

しかし、今なおビジネスの現場で活きているということは、「動機づけ-衛生理論」が実証研究に裏打ちされているからであり、人間性は普遍だからだと思う。

 

 

アブラハムとイサク

 

おわりに、ハーズバーグからの提案を記載しておきたい。(抜粋)

 

達成と達成の承認

職務になんらかの達成機会が存在し、これらの達成によって従業員がいままでより多くのことをかれの職種や職務について知るようにならなければならない。

 

責任

責任の増大のためにはもっと複雑な課業が要求される。職務の複雑性を増大することによって、任務のさまざまの構成要素の間の関係づけを理解する機会が与えらる。

 

成長の可能性

課業の記述に空白部分を含むことによって、成長の可能性のための余地を残しておかなければならない。

 

昇進

より高度の課業を従業員にあてがうことが必要である。このより高度の課業があいまいさのなかで成功する機会を与え、それによって、さらに高いレベルの精神的成長が招来される。

 

興味

従業員がかれの従事する実際の課業から直接的興味を引き出せるようにするには、職務が個人的価値と個性の感覚を提供するものでなければならない。

 

 

 

(参考)マズローの欲求5段階説の原著のタイトルにも「人間性」という言葉が付いています

 

本の内容はこちらをご覧ください

 

 

人間性の心理学

『人間性の心理学』マズロー

 

 

 

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