銀行員 大失職
岡内 幸策 日本経済新聞出版社 2017-06-02 |
最近、銀行から送ってくるものといえば、投信信託や保険の案内ばかりであり、銀行に行けば、案内に立つ人や窓口で応対する人は主婦と思われる人たちである。
そして、なにか聞くと、すぐに説明画面、操作画面の前に案内される。
行員の人数もだいぶ減っているように思える。
そんなことから、「銀行は変わった!」と思っている人は多い。
問題は、なぜ変わったかである。
そして、変わったことにより、なぜ銀行員は大失職するのか、今後、銀行はどうなるのか、どうあるべきかについて書かれた本が本書である。
この本にはセンセーショナルなタイトルがついているが、内容は、むしろ銀行の生きるべき道が書かれていることに注意いただきたい。
銀行がすっかり変わってしまったのは、一つには、マイナス金利の影響で利ザヤが稼げなくなったことがある。
それゆえ、銀行は投資信託や保険などフィービジネスに向かわざるを得なくなっている。
銀行の本業がなにかわからなくなっているのは、このためである。
もう一つの要因に、IT、フィンテック(金融を意味する「Finance(ファイナンス)」と、技術を意味する「Technology(テクノロジー)」の造語。モバイル決済をイメージいただきたい)、IOT(モノのインターネット。センサーと通信機能を内蔵している機器をイメージしてもらいたい)、AIといったデジタル化による第4次産業革命の影響がある。
この内容をイメージしただけで、いままで人が対応していたことが、デジタル化されていくことがよくわかる。
銀行は、いま、生き残りをかけた戦いを展開するとともに、一方で、デジタル革命の前にも立たされている。
そんな中で、従来型の業務を経験してきた人たちは、どうなるのか? ここに銀行員大失職の背景がある。
そして、本業である融資が減ってきているため、融資先も銀行員を受けいれる必然性がなくなってきた。一定年齢に達した銀行員の受け皿がなくなってきたところに、AI時代が到来した。
銀行業務とAI化は、ものすごく親和性があることは容易に想像できる。しかし、このことによって、いままで銀行員が培ってきたノウハウや経験が不要になってきた。
そんなことから、銀行員の行き場がなくなってきているのだ。
著者は、
「『総合職』というのはファジーな、雇用側にとっては便利な職種だ。多くの業務を経験する代わりに、専門性を持ちたいなら自己啓発でという作業を暗黙のうちに強制する。そうして『なんでも屋』になるような中途半端なキャリアは、今後、本人のためにならない」
そして、専門職についてすらも
「AIの進化で、専門職が一般的な職務になることもあり、その専門性の高さが必要になってくる」と言うのである。
そして、「銀行には限らないが、所属している会社という看板がなくなったとき、その人のこれまでの職歴、実績などの価値が別の会社でどの程度有効なものと評価されるか」と言う。
いままで、自分の価値は、企業の冠、そして、そこでの経歴が決めていた。
その典型が銀行であったと思う。そして、そのことを社会全体で容認してきたと言える。
しかし、考えてみれば、そんなものは価値でもなんでもないことに社会は気づき始めた。
すなわち、価値は「なにができるか」に変わってきている。これが本来の姿と言える。
長い間、銀行や大企業に勤め、自分の価値は冠と考えていた人にとっては、つらく厳しい時代になってきている。
しかし、価値は自分が作るものと考えると、救われる人もいるのではないだろうか。
その人たちは、銀行や大企業にあって、独自の文化やルール、掟によって正しく価値を評価されなかった人たちかもしれない。
「あなたの現在価値はいくらですか?」ーそんなことを、長い間、社会は問いもしなかったし、自分で考えることもなかった。
しかし、いまは、自分の現在価値は、自分で評価することが必要な時代だと思う。
そして、意外なことろに、価値があるかもしれない。
私はビジネスマナーの研究をしていることもあって、著者の次の言葉が目に飛び込んできた。
「金融機関に入ることで、思わぬ躾をしてもらうことがある。口の利き方や礼儀といった基本的なマナーやエチケットであり、組織だけではなく社会生活においても非常に重要なことだ」
そんなことも含め、自分の価値を一度、正しく考えてみることは必要だと思う。
『銀行員 大失職』
目次
第1章 変わる市場とニーズにどう応えるか
第2章 金融機関はいつからサービス業でなくなったのか
第3章 AIでいらなくなる行員
第4章 フィンテックが変える銀行業務
第5章 「デキル」人材は埋もれている
第6章 地域金融機関の存亡
第7章 大手行の存亡
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