なぜ、早慶の今を30年前と比較するのか?

早稲田と慶應の研究 (小学館新書) 早稲田と慶應の研究 (小学館新書)

オバタ カズユキ

小学館 2018-05-30

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最近、過去と現在の大学序列を比較した雑誌や本が多く出版されている。

 

代表的なものは、「 週間ダイヤモンド」2017年9月16日号の「1982~2017 35年の偏差値と就職実績出迫る大学序列」である。

 

このような雑誌の常、記事の中心は早慶の各学部の比較になる。
そんな中、『早稲田と慶應の研究』が発売された。

 

著者のオバタカズユキ氏は『大学図鑑!』というぶ厚いガイドブックを20年にわたって出し続けている人だから、まさに、大学の今を語るプロ中のプロだ。

 

そのオバタカズユキ氏が、早慶だけにスポットを当てて、現役学生、OB・OG、キャンパス付近の店舗の主人、企業の人事担当者に「実際のところはどうなのか」を聞きまくり、ありとあらゆる統計資料を入手し分析している。

 

新書だが、読み応え十分だ。
売れている!

 

オバタ氏は、この本の読者のニーズを、まずは大学受験生やその保護者、あるいは受験生を支援する教育関係者とし、もう一つを早慶OB・OGの母校イメージ更新としているが、おそらく、この本の目的は後者だ。

著者の目論見どおり、早慶OB・OGがこの本を買いまくっている。

 

そんな売れまくっている本だが、なぜ30年前と今とを比較しなければならないのだろうか?

 

それは、30年前を境に、早慶学部のヒエラルキーに異変が生じたからだと考えている。

 

この本には1987年あるいは1988年のデータが載っているが、ヒエラルキーの異変は、まず慶應側で起こった。

 

偏差値に限って言えば、この時点で慶應法が慶應経済をすでに抜いていた。
だが、慶應法とは僅差になったが、早稲田政経がまだ私大のトップとして面目を保っていた。

 

すなわち、30年前が、かろうじて「早稲田は政経、慶應は経済」と言えた時代だったのだ。

 

その後、1992年を過ぎると、慶應法が早稲田政経を抜く。以来、慶應法は20年以上、私大のトップの座にいる。
この点については、先に紹介した「週刊ダイヤモンド」に詳細が書かれている。

 

思わず、「そんなこと、どうでもいいじゃないか!」と叫びたくなるが、そうはいかない早慶のオールドファンがいる。

 

早慶のオールドファンの中には、早稲田政経、慶應経済命のような人がいるからだ。

 

最近、そんなOBたちの、やるせない話をずいぶんと聞くようになった。
かつて、内部進学で慶應経済に進んだ親は、子供から「パパ、高校時代、あまり勉強やらなかったの?」と言われたという。

 

また、早稲田政経に通った親世代にとっては、どの資料を見ても、慶應法がたんこぶのように自分たちの上にいる。

 

おまけに、この本にも掲載されていたが、早稲田政経と慶應法両方に受かった場合、なんと10人中8人までが、慶應法に進んでしまう。その悔しさは、いかばかりかと思う。

 

早稲田政経、慶應経済を自分の拠り所にしてきた人たちは、30年近く、悶々とし続けていたのではないかと思う。

 

30年前に卒業した人たちは、いま、50歳を過ぎ、サラリーマンならそろそろ定年が見えてきた世代だ。
そんな世代の中には、「自分の青春はなんだったんだろう」と考える人もいると思う。

 

この話の酷いところは、自分たちの時代には、当たり前のように考えられていた序列が、子供の世代にはまったく通用しなくなっているということだ。

 

「オレのときは、経済の方が法学部より難しかったんだぞ」と、慶應経済を卒業した親がいくら強調しても、子供たちは「へぇーそうだったの」「ふーん」くらいにしか反応してこない。
反応がないということは、子供たちはまったくそう思っていないのだ。

この反応のなさが、持って行き場のない悔しさにつながっている。

 

考えてみれば、親世代の常識が、いつまでも続くと考えているところに、問題がある。

 

親世代の常識は、子世代の常識ではないと考えた方が、世の中の流れから見れば自然だが、早稲田政経、慶應経済命と考えている親世代は、いつまでも、時計の針が、自分たちの時代のまま止まっていてもらいたいと考えている。
このこと自体、無理があるのかもしれない。

 

そして、孫世代になると、子供世代に通じた常識が、また通じなくなる。
これが世の中というものではないだろうか。

 

 

人は歳をとると、自分たちが過ごした時代を懐かしむ。
それ自体、人がとやかく言う話ではなく、大いに「自分たちの時代は、こうだった」と語ってもらいたいと思う。

 

ただ、時代はいつも未来に向けて針を進めている。
早稲田も慶應も、そこに在籍する学生も、みんな未来に向かっている。

 

30年前に早慶を卒業したOB・OGは50歳を過ぎたが、人生100年時代、これから自分の未来をどう歩んでいくかということが重要だ。
大いに、青春時代を懐かしみ、そして、大いに自分の未来に挑戦してもらいたい。

 

 

 

 

2018年7月14日