2026.02.21更新
ビジネスでは、「話し方の本」に載っていない表現が幅を利かせることが多くあります。代表的なのはエリートたちの表現力です。

彼らの独特な表現力に、私たちは戸惑うのです。
それはエリートたちのなかだけで、共有されている表現と思えるからです。
逆に言えば、そんな集団の存在を感じさせる言葉ゆえに、私たちは彼らをエリートと認めているのかもしれません。
エリートたちの表現力については、長い間、私のテーマでした。
私はエリートたちが使う言葉を、『サラリーマンの本質』のなかで「本社言葉」と表現しました。
「本社言葉」については、『ビジネスマンが見た出世のカラクリ 出世はタイミングで決まる!』のなかで、「スキーム」「マター」を例に挙げています。
エリートたちの間では、「早くスキームを示せよ」とか、「それは君のマターじゃない」といったやり取りが行われていることを、会社社会のなかで確認したからです。
会社により使われる言葉は異なりますが、このような言葉は必ず存在します。

もう少しエリートたちが使う言葉を取りあげてみましょう。
私が耳にした言葉で、「ちょっと直球ですね」という言葉もありました。
話の相手が、あることを第三者に申し入れようとするときに使う言葉です。
言葉自体、何の変哲もありませんが、「ちょっと直球ですね」という表現を考えてください。
「ちょっとストレートですね」と言っていません。
「ちょっと直球ですよね」とも言っていません。
「ですよね」を「ですね」にしているのです。
そんな微妙な違いなど、どうでもよいように思えますが、相手に与える印象がまるで違います。
「ちょっとストレートですね」「ちょっと直球ですよね」と言うと、自分の考えが相手とは違うことを示してしまいます。
いわば、「ちょっとストレートすぎませんか」「ちょっと直球すぎませんか」と言っているのと同じです。
すると、相手は自分の意見にコメントされたわけですから、「このくらいで当然だ」と反発するかもしれません。
そうなれば、言った方も「それでは、ストレートすぎると言っているんですよ」と語気を強めなければなりません。
ところが、「ちょっと直球ですね」は自分の意見とも、意見でないともいえるのです。
「おっと、直球で来ましたか」くらいのニュアンスです。
このように表現されると、相手も(そうだな。やめておくか)と引き返すことができます。
また、言葉自体に重みがないので、言った方も言葉尻をとらえられることがありません。
こんな表現を用いながら、彼らは調整し合っているのではないかと考えたのです。

「ど真ん中」という言葉もよく聞きました。
エリートの間で話し合うとき、ある部署の中心人物を「ど真ん中にいる人」と表現します。
思わずキャッチャーミットの中心が浮かびます。
たしかに、「Aさんは○○部では中心的存在で、影響力があり、彼の発言にはみんなが従う」といった表現より、
「ど真ん中にいる人」と表現した方が、Aさんの存在が実感できるし野暮臭くもありません。
こうしたエリートたちの表現は、いくら話し方、伝え方の本を読んでも出てきません。
彼らが打ち合わせや調整、コミュニケーションを重ねた結果、生まれてきた言葉であり、彼らだけで共有しているからです。
ケネス・J・ガーゲンとメアリー・ガーゲンは「言葉は関係性から生まれている」(『現実はいつも対話から生まれる』ディスカヴァー・トゥエンティワンより)と言いますが、その表現がピッタリあてはまります。
エリートの表現力をどう受けとめればよいでしょうか?
彼らの言葉の意味するところを少しだけ考えてください。
私は、『ビジネスマンが見た出世のカラクリ 出世はタイミングで決まる!』のなかで、
「アジリティ」(敏捷性)と「愚直」という言葉を例に挙げ、この言葉はきっとトップが「行動を迅速にとれ」「愚直に成果を追い求める人が大事」と言ったことが発端になっていると述べました。
エリートたちは部署間の調整を進めるなかで、会社の環境やトップの考え方などの情報をいち早く入手するはずです。
彼らが使う言葉から、会社の環境や会社がめざしている方向性を察知してください。
また、彼らの言葉を頭のなかで反芻すれば、彼らの視点、考え方といったものもわかってきます。
そんな努力を少ししていただきたいのです。
しかし、表現の差を能力の差にだけは持っていかないでほしいと思います。
彼らの言葉は、日々の打ち合わせや調整、情報交換を通じて生まれたものにすぎないからです。
綾小路 亜也
どの話し方の本にも載っていないエリートたちの表現力 から

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