LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
リンダ グラットン アンドリュー スコット 池村 千秋 東洋経済新報社 2016-10-21 |
私たちは、ずいぶんとおかしなことをしている。
過去の成功者と私たちとは、まったく寿命が異なるのに、過去の成功者から成功法則を学ぼうとしている。
過去の成功者たちは、教育→仕事→引退という3ステージがきれいに寿命の中に収まっていた。
私たちは、この3ステージの中で、地位を得た人、名声を得た人、お金を稼ぎまくった人を成功者と呼び、お金をたっぷり残した人を大富豪などと呼んできた。
だが、人生100年時代、教育→仕事→引退という3ステージでは収まらない。
この本に登場する1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーンの3人の人生を見れば、それがよくわかる。
ジャックは62歳で引退し、2015年に70歳でこの世を去った。
ジャックは引退後8年しか生きなかったこと、この時代の人の年金は手厚かったことが、ジャックの人生をきれいに3ステージの中に収めている。
ところが、1971年生まれのジミーは、2018年現在46歳~47歳だが、ジャックのようにはいかない。
ジミーの時代の平均寿命は85歳だからだ。ジミーは65歳で引退を考えているが、それでもジミーの人生は引退後20年もあり、年金も不十分で、65歳で引退してはその後の人生は金銭面一つとっても厳しい。
1998年生まれのジェーンは、2018年現在29歳~30歳だが、ジェーンの時代は100年以上生きる可能性が高い。
65歳で引退という選択肢は、収入面ではありえないことを示している。
それでは、ジミーもジェーンも働き続ければいいじゃないかという話になるが、そんな簡単に働き続けられるものでもなく、人生すべてお金かというと、そうでもない。
お金は有形資産だが、この本では生産性資産、活力資産、変身資産という3つの無形資産を紹介し、
生産性資産を、「人が仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素」
活力資産を、「肉体的・精神的な健康と幸福」
変身資産を、「大きな変化を経験し、多くの変身を遂げるための資産とし、自分についてよく知っていること、多様性に富んだ人的ネットワーク、新しい経験に対しての開かれた姿勢など」としている。
つまり、人生100年時代には、お金という有形資産も必要だが、それぞれのステージには必要な無形資産があり、その無形資産を自分で組み立ていかなければならないのだ。
この本ではジミーの3ステージに0.5を足した3.5シナリオ例を挙げている。
55歳のジミーは自宅近くの社会人教育を行う大学で週1回、夜間にITとマネジメントを教え始める。その後、大学でフルタイムで働く。
もちろん、もっと積極的に変化を追求する4.0シナリオを選ぶことも可能だが、そのためには早くから変身に向けた行動をとらなければならない。
100年以上生きる可能性が高いジェーンのシナリオは、ジミーのような小規模な投資と変身の3.5シナリオでは、とうてい成り立たなくなり、最初から5.0シナリオを考えなければならない。
この本では次のようなシナリオを紹介している。
ジェーンはさまざまな選択肢を模索するエクスプローラーの時代、組織に属さないインディペンデント・プロデューサーの時代、企業に加わる時代、企業をやめ人材コンサルタントとして活躍する時代、休息を取り、自分の時間を使う時代、ポートフォリオ型の生き方を実践する時代を経験し、85歳で引退する。
ジェーンは大規模な変化や移行をいくつも経験する。
いまの日本で議論の中心となっているものは、ちまたにあふれている「定年」本が示すとおり、「定年後」の収入、生きがいをどうするかということである。
飛び交っている言葉は定年延長であり、「まだまだ頑張れる」である。
つまり、教育→仕事→引退という3ステージではまかないきれなくなり、0.5足すか足さないかの議論をしている。
そして、いまの時代に定年を迎えた人は、たしかに、3ステージの中の「仕事」の優劣(本当は人からの評価にすぎない)の差で、蓄えなどに影響があったとも言える。
その意味で、教育→仕事→引退の成功模範者がいたということになる。
だが、ジミーの時代を越えて、ジェーンの時代は、自分で生き方を選択する時代であり、金銭資産を追うステージもあれば、活力資産や変身資産を追うステージもある。
その結果、金銭資産が落ち込むステージも出てくるが、逆に、そのときに活力資産がぐっと増えることもある。
つまり、金銭などの有形資産、生産性資産、活力資産、変身資産は、ステージごとに波打つということである。
重要なことは、それを、自分で組み立てるということである。
また、考えなければいけないことは、長寿を恩恵にするという生き方である。
そんな時代に、教育→仕事→引退を前提にした過去の成功者を基にした成功法則など、何の役にも立たないことは明らかである。
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