2023.12.22更新
私たちはキャリア理論を、ほとんどの場合、要約した本やテキストから学ぶ。
バンデューラが提唱した「自己効力感」は受けいれやすい理論であり、
それで十分かもしれないが、「自己効力感」はさまざまな分野に応用できる理論だ。
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したがって、その理論がどのような分野で応用できるか考えることも非常に大事である。
紹介する『激動社会の中の自己効力』はアルバート・バンデューラ監修による『Self efficasy in Changing Soceities』の全訳である。
1993年ドイツのマルバッハ城で開催されたSelf-efficasy会議に参加した学者の論文が主になっている。
論文の集約というと二の足を踏むかもしれないが、比較的平易に書かれているので、ぜひ参考にしていただきたいと思う。
「自己効力感」を考えるとき、学者たちはどんなことに関心を持ったのだろうか?
それは、私たちが考えることと、だいたい同じだ。
東西ベルリンの壁が崩壊したとき、東ドイツの人と西ドイツの人の自己効力感の差が浮かび上がったはずである。
特に異なる社会制度の下で育った子供たちの自己効力感に差が見られたはずだ。
また、東ドイツの人でも、統合社会でうまくやっていけた人とそうでない人もいたはずである。
それは東ドイツの人ばかりではない。
新しい社会に移住するとき、それを「危機」と感じる人もいれば、「チャンス!」と感じる人もいる。
その差は自己効力感の差なのだろうか?
自己効力感の差だとしたら、その差はどのようにした生まれたのだろうか。
また、私たちは成長するにつれ、得意な科目と苦手な科目が生じ、それによって専攻が決まった。
その分岐点は多くの場合「数学」だったはずである。
なぜ数学とこれからも付き合っていけると考えたのだろうか。
あるいは、どうして数学とおさらばしようと思ったのか。
就職するときも、なぜ、その職業、会社を選んだのだろうか?
健康などの自己管理もうまく行える人もいれば、そうでない人もいる。
アルコールなどの中毒症にかかった人の中には、その症状から脱却できる人もいれば、そうでない人もいる。
その差は何なのだろう?
私たちが疑問に思っていることを、各学者はテーマに挙げている(下記目次参照)
自己効力感とは、「自分がある行動についてしっかりとやれるという自信(効力感)のことであり、
自分の行動について自分自身でコントロールできているという信念」である。
(労働政策研究・研修機構『新時代のキャリアコンサルティング』参照)
「コントロールの信念は、随伴性の信念と能力の合成として概念化されている。
随伴性の信念とは、ある行動がある結果をもたらす蓋然性に関する信念であり、
能力の信念とは、こういった行為をもたらす能力を意味する」
(本書 3コントロールの信念の発達的分析 A.フラマー)
バンデューラが提唱した自己効力感は「ある行動」についての効力感(自信)であることを押さえておく必要がある。
ネット上に掲載されている記事を見ると、自己効力感が高い=達成や成功を手に入れやすいといったニュアンスで受け取ってしまうが、
この本で示されている自己効力感はある行動についての自信である。
ある行動について自己効力感が高い人は、他の行動についても同じような傾向があるとは思うが、
最初から自己効力感を一括りにして考えないほうがよいのではないか。
それは、たとえば勉強ができる人で泳ぐことに関しては金づちの人に、勉強と同じように自己効力感を持てといっても、話が違うからである。(注参照)
自己効力感自体は普遍的な概念であるが、それぞれの分野と環境により、内在するテーマが違うといったことを示しているのが本書だと思う。
たとえば、部下の印象から、一括りに自己効力感が低いから自己効力感を高めようと考えるのでではなく、
どの部分に自己効力感がないのか、その原因は何なのか、それを高める方法にはどんなことがあるのか考えることが必要なのだ。
(注)自己効力について書かれた本には、自己効力は一般的自己効力と特定自己効力に大別されると記載されている。
一般的自己効力は、ある特定の状況での自己効力が一旦構築されると、それが他の状況へと一般化されていく傾向があるからである。
(『人と組織を変える自己効力』林 伸二 同文館出版 P11)
目次
1 激動社会における個人と集団の効力の発揮
2 激動社会のなかの人生の軌跡
3 コントロールの信念の発達的分析
4 コントロールの信念に関する家族の影響
5 自己効力における比較文化的視点
6 ストレスフルな人生移行における自己効力
7 自己効力と教育的発達
8 職業選択と発達における自己効力
9 危機行動の変容と健康行動の受容ー自己効力の信念の役割
10 自己効力と中毒行動
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