マッキンゼーのエリートが大切にしている39の仕事の習慣
大嶋祥誉 アスコム 2014-07-26 |
一番新しいマッキンゼー本なので取り上げた。
著者は、もちろんマッキンゼー出身である。
最初にこの本の弁護からしなければならないが、多分わかりやすく、しかも語りかけるような感じを意識したためか、「ありきたり」の話になっている。
それに対して、この本を買った人は相当ビジネス書に興味を持っている人だと思う。
「マッキンゼー」「エリート」という言葉が目に止まり、続いて「39の習慣ってなんだ?」と、自分が知らない世界を探し出そうとした人たちだと思う。
つまり、自分が知らない本質を見つけ出そうとした人たちである。世の中で言われていることとは違うなにかを見出そうとした人たちである。
そのためにマーカーと付箋を用意した人だと思う。
しかし、マーカーでの線引きや付箋の貼付箇所はあっただろうか?
外資系コンサルタント出身者の方は、よく「マッキンゼーでは………」「外資系コンサルタントの世界では………」という言葉を使うが、そろそろそういう表現はやめた方がいいと思う。
随分前には、「え? そういう考え方があるの」と驚いた人はいても、今は正直「また、その話か」くらいにしか思われていない。
私が名著だと思っている勝間和代氏の『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』が出版されたのは2007年である。また、かの有名な大前研一氏の『企業参謀 (講談社文庫) 』が出版されたのはなんと1985年なのである。
こう言うと、「普遍性がある」という反論が来そうだが、その間、企業側も社員側も随分と変わったのである。この点を見落としてもらいたくないと思っている。つまり、いつまでも成長しない子供ではなくなっているということである。
また、あまりにも、色々な人が同じことを繰り返し言うと、「一番変わっていないのは外資系コンサルタント会社」だと思われかねない。
多分、この本を読み終えた読者は、ある意味、自信を持つのではないだろうか。
「質の差はあるかもしれないが、普段見聞きしていることと同じ」と思うのではないだろうか。
また、もっと奥深く業務を遂行している人もきっと多くいるはずである。
この本では「仮説を立てる」としきりに言うが、どんな職種、職場においても、人や組織は仮説を立てて行動しているのである。
確かに仮説自体は、事実に基づいて、この本でいうリサーチをして立てなければならないが、そんな取り立てて強調するような話ではないと思う。
この本は「仮説を立て、検証し、結果が出なければ、次の仮説を立てて、検証する。このプロセスを、マッキンゼーでは『仮説思考』と呼んでいます」(P46)と言うけれど、実務で重要なことは、仮説を立てて上手くいかなかった場合の対処法である。その処理の仕方だと考える。
次々に仮説を立て、検証する時間と費用と余裕は、現実問題、ない。
ビジネス社会では、仮説を立て実行し、上手くいかなかった場合は失敗なのである。
サラリーマンやサラリーマンの組織は評価を受けるのである。結果責任を負うのである。そして中小企業なら倒産なのである。
ぜひ、現実の厳しさとその対処法についてもご賢察いただきたいと思っている。
さて、あくまでも私見ということだが、この本の中で、みなさんに絶対にその通りにしてもらいたくないと思う箇所がけっこうある。
一つは、メモテクニックの中で、机の上の整理が苦手な上司には、メモの貼付場所を「パソコンの画面の脇部分か、電話の受話器のどちらかです」(P93)と記述しているが、みなさんが、もし上司との人間関係を敢えて悪くしたいと思うなら、また張り倒されたいと思うのなら実行してもらいたい。
逆にみなさんが上司で、自分の電話器に貼られたメモを見たら、どう思いますか?
挑戦、嫌がらせと受け取るのではないでしょうか?
上司への気遣い0だと思います。
一方、この本では、上司へのメールで、[緊急!][至急!][本日中にお願いします]などの文言は避けろと言っている。(P99)
ちょっと論理矛盾ではないかと思う。
どっちも避けなくてはいけない話だと思う。加えて言うならば、電話器へのメモの方が限りなく強烈である。
次に「最初に挨拶をするときに、『私のプロフィールシートをご用意しましたので、お時間があるときにでもお目通しください』と言ってさりげなく差し出してみてください」(P136)
とあるが、これは、コンサルティングのような業界では、最初から自分をよく知ってもらいたいということで有効かもしれないが、一般的には間違いなく奇異に見られる。その業界の有名人(?)となる。多分、「先日、こういうやつがいてさ………」と必ず話題になる。
この本では、さかんに、「自分視点」は×としているが、これが自分視点なのである。
実務感覚から言うと、相手のプロフィールを引き出すことの方が重要で優先される。(もちろんこの本が、そのためにまず先制攻撃で自分のプロフィールシートを提示するという意味はわかってはいるが)
実はこれがビジネスの原点なのである。つまりビジネスはあくまでも相手視点でものを考えなくてはならないのである。
それでは、どうしたら引き出すことができるか? -それは相手への関心と訓練である。
たとえば、相手の会社の応接間に案内される。そこに飾られている絵や壷をじっと見てみる。
自分の感じるままでいい。「いい絵だな」と思ってもいいし、「どこの風景だろうか?」あるいは、「安っぽい絵だな」と思ってもいい。
すると、相手は、こちらの感情に気づくのである。
「倉庫を整理していたらたまたま出てきたんです」「絵好きですか?」「実は、社長の奥さんの絵なんです」「この景色いいでしょ」……
これが情報なのである。しかも自然な形で得られる情報なのである。相手に負担をかけない自然な形の情報獲得なのである。
すなわち、情報はたえず相手への関心から得られるものだと考えるのである。
形から入ると、必ず行き詰まると思うのである。
その他、[相手:白いコップが売れない、どうすればいいか?]で、俯瞰視点の例として「そもそもコップの市場が縮小する前に、事業を売却すべきでは?」との例示があるが(P146)、ちょっと誤解を与えかねない。俯瞰視点のその他の例も同じである。
すなわち若い人は、この本を読んで「そもそも市場はどうなのか………」考えるのが俯瞰視点と思ってしまうからである。
もし、この例で言えば、このように考えるのが俯瞰視点なのではないだろうか。
「相手はどうして白いコップにこだわるのだろうか? 白いコップはこの3ヶ月でどのくらい売れたんだろうか? 他のコップはどうだったんだろうか? もしかして、白いコップの方が利益率が高いのかもしれない。それとも、白いコップには相手の会社の歴史が刻まれているのかもしれない。競合他社はどのような営業をしているんだろうか? また伸びているのだろうか? 市場自体はどうなんだろう? 消費者はどこでコップを買っているんだろうか? デパート、専門店、スーパーの売り上げ構成比はどうなんだろう? どこのマーケットが伸びているんだろう? 外国の会社はどういう方法でマーケットに入ってきているんだろうか? 新たなビジネス領域はないだろうか? 贈答品、土産品としてのポテンシャルはないだろうか? ………」
これが俯瞰視点だと思うが、「いきなり、そもそも市場が………」というのは、かなりの誤解を与えると思う。
最後に、この本はあまりにも「バリュー」「バリュー」と言うが、若い人は、この言葉だけを身に付ける恐れがある。
また、ビジネスの世界では、社内外問わず使わない方が無難である。自分の心と、社内にとどめておく言葉だと思う。
また、マービン・バウワーの言葉が紹介されているが、この肩書に「あれ?」と思った読者も多いはずだ。
マービン・バウワーは「マッキンゼー生みの親」としてあまりにも有名だが、「あれ?創設者なんだ? そうなんだ!」と読者は思ったはずだ。
この本のタイトルが「マッキンゼーのエリートが大切にしている39の仕事の習慣」であり、著者はそのマッキンゼー出身であり、しかも、この本でも冒頭に書かれている通り、マッキンゼーは「まず事実を正しく把握する」から始まる会社であることから、間違いはないと思うのだが、一般的には、マッキンゼーは1926年に「ジェームズ・O・マッキンゼー・アンド・カンパニー会計士・経営工学士事務所」という名称で事業を始めたことで知られている。
確か、バウアーは、ジェームズ・O・マッキンゼーが亡くなったときも会社のトップではなかったはずだ。
また、後日、バウアーは、「なぜ、社名をバウアーにしなかったのか?」と人に聞かれているほどである。
要はこの本を読む人の多くはそんなことを知っている。
それだからこそ、肩書きの説明はした方がよいと思う。
なぜなら、現実のビジネス社会では、相手の会社名や人の経歴、氏名を間違えたばかりに取引停止や出入り禁止などの痛い目にあっている人も多いからである。
事実を売り物にする会社であるから、そんなことはないと思うが、念のために疑問を呈しておきたい。
なお、まったくの余談であるが、ビジネスの現場では知っているようで知らないことが多い。
私は知らないことを知ることは非常に重要なことだと思っている。
ブログページで、「お祝い、餞別はこっそり渡す」「手みやげをケチらない」「上の人から折り返しの電話をもらわない」などを書いていますので参考にしてください。
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