この本は、いかにも小学校の社会の先生が生徒に質問しそうな13のクイズから始まる。
いずれも世界の状況に関する初歩的なクイズだ。
しかし、このクイズの正解率は平均で7%にすぎない。
なぜ、ほとんどの人が事実を正しく認識していないのだろうか?
これが本の内容だ。
その理由を、人間には本能的な思い込みがあるからだと著者は言う。
次の10の本能が、事実に基づいて(ファクトフルに)、世界を見ることを妨げているのだ。
1.分断本能
2.ネガティブ本能
3.直線本能
4.恐怖本能
5.過大視本能
6.パターン化本能
7.宿命本能
8.単純化本能
9.犯人捜し本能
10.焦り本能
■私たちが思い込んでしまうこと
グラフに描かれた「線の続き」を勝手に想像していないだろうか?
直線的に伸び続けると考えることはないだろうか?
伸び続ける世界人口のグラフを目の当たりにしたとき、私たちはその先も点線で延長しイメージする。
そうすると、世界の人口はどこまでも増え続けることになる。
考えてみれば、グラフには直線もあれば、S字カーブもあれば、すべり台式に下がるグラフもあれば、コブの形になるものもあるのだ。
「グラフは、まっすぐになるだろう」という思い込みがある。
これが直線本能だ。
著者は、「実際には、直線のグラフのほうがめずらしいこと、直線本能を抑えるには、グラフにはさまざまな形があることを知っておくこと」とアドバイスする。
注意したいことは、「2つの点を線で結ぼうとすると、かならず直線になる」ことだ。
そんな資料に出会ったら、他の点も示してもらうことだ。
グラフの「線の続き」を勝手に想像してしまうことは、多いはずだ。
数字をひとつだけ見て、「この数字はなんて大きいんだ」「なんて小さいんだ」と感じ取ってしまうことはないか?
私たちは、事実を端的に示す数字を非常に尊重する。
そして数字の大小にこだわる。
その結果、「こんなに」という言葉、「これしか」という言葉が会議で飛び交い、その趨勢を左右する。
そうすると、事の重大さを勘違いしてしまうのだ。
著者は「数字をひとりぼっちにするのは絶対ダメ。ひとつの数字が、それ単体で意味を持つことなどない」とアドバイスする。
それを防ぐのは、数字の「比較」と、何に対する数字かという「割り算」だ。
大きい数字を見せられたら、「ほかの数字と比較しない限り、どんな数でも大きく見える。数字が大きく見えると、その数字がさも重大なことを表しているように思えてくる」と著者は述べる。
ただひとつの数字が、とても重要であるかのように勘違いしてしまうこと ー これが過大視本能だ。
数字をひとりぼっちにすると、物事の大きさの判断を誤る。
「悪い」と「良くなっている」は両立する
いまの会議では、上役が資料の数値やグラフを凝視するところから始まる。
サッと、出席者に緊張が走る。
顔を上げた上役から出てきた言葉は、「これじゃダメだ」「悪い!」という言葉だ。
しかし、著者は、「悪い」と「良くなっている」は両立するという。
「悪い」は現在の状態、「良くなっている」は変化の方向だからだ。
この言葉は、「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み ー ネガティブ本能についての説明のなかで出てくる。
会議の場面などは想定していないと思われるが、エッセンスは同じだ。
しかし、「良くなっている」という言葉はなかなか言いづらい。
著者の言葉を借りれば、「何かが『良くなっている』と聞くと、『大丈夫だから、心配しないで』とか『目をそらしてもいい』と言われている気になる」からだ。
しかし、考えてみれば、「良くなっている」という言葉は、現在の「悪い」を否定する言葉ではない。
共に事実として成り立つ言葉だ。
事実を正しく認識すれば、「悪い」と「良くなっている」は、両立する言葉なのだ。
「悪い」と「良くなっている」は両立する。
まとめ
いまのビジネスパーソンは、数値やグラフに表れた事実を必死に読み取ろうとする。
資料を見る目も真剣だ。
事実がいかに重要か、叩き込まれてきたからだ。
しかし、資料の多くは、その時点の数値を示しているか、ある時点と現在との比較だ。
その事実に基づいて、現況を「いい」「悪い」、あるいは「増えている」「減っている」と判断してしまっている。
つまり、事実を、その時点、あるいは他の一点と比較している。
このことは、静態で事実をとらえていることになる。
しかし、現在は、時間的経過とともに移り変わった動態の結果であり、未来も、現在からの動態の流れのなかにある。
世界は変わっている。私たちの環境も変わっている。会社の状況も変わっている。
物事の事実は、静態を見ていただけでは、けっして読み取れないということを、この本は教えている。
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