助けてもらいたい人のことを知っているか? :『人を助けるとはどういうことか』から

2023.06.15更新

 

 

人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則

『人を助けるとはどういうことか』表紙

 

内的キャリア、外的キャリア、キャリア・アンカーなどで知られる組織心理学者であるシャイン博士の本だ。

シャイン博士は幾度か日本を訪れている。

「本書は、類い稀な『支援学』への平易な入門書である」という監訳者による序文で始まるが、

読めば読むほど、その内容は奥深い。

 

 

みなさんは、「マサチューセッツ通りはどちらですか」とたずねるられたら、どう答えるだろうか?

たぶん、「ああ行って、こう行って、あそこを曲がって……」などと教えるのではないだろうか。

しかし、その人には「目的地」があるのだ。

 

なぜ、そんなことが起きるのだろうか?

それは、支援を求める人のことを知らないからである。

また、支援を求める人のことを知ろうと思わないからである。

 

私たちは、支援を求める人のことは何も知らないという前提-「無知の知」に立つことが必要なのだ。

 

 

 

 

シャイン博士はクライアント(支援を求める人)が陥りやすい5つの罠と支援者が陥りやすい6つの罠を挙げているが、

ここでは、支援者が陥りやすい6つの罠を見ていこう。

(文中の言葉はシャイン博士そのままの言葉である)

①時期尚早に知恵を与える

あまりにも早く助言を与えれば、クライアントの立場をさらに下に置くことになる。(注)

この反応は、提示された問題が真の問題だという支援者の思い込みも暗示している。

 

(注)シャイン博士は、支援を求める立場=ワンダウン、支援を求められる人=ワンアップ とその役割を表現している。

⓶防衛的な態度にさらに圧力をかけて対応する

支援者はクライアントが本当の問題を打ち明けたと思い込むことが多い。

そして、クライアントには提供された解決策をやり通すだけのスキルも能力もあると思い込んでしまう。

③問題を受け入れ、(相手が)依存してくることに過剰反応する

支援者の役割をすぐさま引き受けて自信をみなぎらせている人には、助けが得られるかどうかもわからないうちにクライアントは依存してしまう。

④支援と安心感を与える

支援することが適切でなく、クライアントの地位の低さを助長してしまう場合がある。

⑤距離をおいて支援者の役割を果たしたがらない

さまざまな罠を避けようとして、感情的な距離をかなり置くため、まったく関わりたくないという気持ちを伝えてしまう。

⑥ステレオタイプ化、事前の期待、逆転移、投影 (注)

支援者は過去の経験に基づいたすべてのものに左右されやすい。

 

(注)訳者注:精神分析の治療関係の中で、分析家が被分析者に対して憎しみや愛情を感じることを「逆転移」という。

 

 

 

シャイン博士は支援者には下記3種類の役割があるという。

 

1.情報やサービスを提供する専門家

2.診断して、処方箋を出す医師

3.公平な関係を築き、どんな支援が必要か明らかにするプロセス・コンサルタント

 

1も2も支援の役割であり、そのことを職業としている人も多い。

ただし、日常の人間関係と支援を考えるとき、重要なものは3のプロセス・コンサルタントとしての役割だ。

この本の肝の部分であることから、原文のまま、プロセス・コンサルテーションとはどのようなものか紹介しておきたい。

 

 

プロセス・コンサルテーションとは、支援者が最初からコミュニケーションのプロセスに焦点を当てることを目的とする。

クライアントの要求の内容は無視されないが、支援者はまず、態度や声の調子、環境、ボディランゲージ、ほかにも不安や信頼の程度を示す手がかりに注意を払うことによって、相互の関係がどうなっているかに注目する。

目的は互いの立場を対等にし、クライアントも支援者も無知をなくせるような環境を作ることだ。

その概念は、あまりにも多くを想定せず、クライアントがよりさまざまな事柄を打ち明けられるような状況を作ることである。

そうすれは、そのプロセスの中でクライアントは立場を獲得し、信頼を構築していけるだろう。

つまり、初めの段階で権力のある地位に就くことによる罠を避けるために、控えめな問いかけをする役割を選ぶという行動である。

 

 

この役割の中心にあるのは、クライアントが主体的であり続けるように—つまり診断や改善のイニシアティブを保持し続けるように、クライアントを励まさねばならないという前提だ。

なぜなら、識別された問題を抱えているのはクライアントだけだし、自らの状況の真の複雑さを知っているのも、自分たちの文化で何がうまくいくかを心得ているのも彼らだけだからである。

 

 

支援者は、クライアントに対して自分は何も知らないという「無知の知」を持つことが必要だと述べたが、

注意すべきは、クライアント自身(支援を求める人)もまた、自分のことを知らないことが多いということである。

それゆえ、支援者はクライアントに問いかけ、クライアントに語ってもらうのだ。

互いに無知の知を認めることで、クライアント(支援を求める人)が求めるもの、望む方向に向かうに歩み出す方法が、シャイン博士が提唱するプロセス・コンサルティングだと考える。

それには、シャイン博士が言うように

最初から「問題を前提とした質問をしない」、「新しい情報が流れるように、会話する余地を作る」ことが必要だ。

 

 

 

目次

①人を助けるとはどういうことか

⓶経済と演劇 人間関係における究極のルール

③成功する支援関係とは?

④支援の種類

⑤控えめな問いかけ 支援関係を築き、維持するための鍵

⑥「問いかけ」を活用する

⑦チームワークの本質とは?

⑧支援するリーダーと組織というクライアント

⑨支援関係における7つの原則とコツ

 

 

 

 

参考記事:ビジネス社会で実際に助けてもらうには?

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