2023.01.19更新
どのキャリア理論の本にも掲載されているクランボルツ。
『その幸運は偶然ではないんです!』の著書だ。
クランボルツは1999年に『計画された偶発性-予期せぬ機会を作り出す』を発表した。
「計画的偶発性理論」(プランドハップンスタンス理論)である。
我が国とも縁がある。
2001年に、慶應義塾大学キャリア・ラボ・シンポジウムにて、「予期せぬキャリア上の出来事」をいかに作り出すか、について講演した。
その後、2004年に『Luck is no Accident』(翻訳名『その幸運は偶然ではないんです!』)を出版している。
この本である。
クランボルツの理論は、他のキャリア理論(カウンセリング理論)と大きく異なる。
ひと言で言えば、従来のカウンセリング理論では望ましくないと考えられてきた「未決定」を望ましい状態と考えていることだ。
(『新版 キャリアの心理学【第2版】―キャリア支援への発達的アプローチ―』参照)
なぜか?
本に書かれている次の言葉を見てもらいたい。
・結果をコントロールすることは誰にもできない。
・キャリアは前もって計画できる、あるいは計画すべきだという考え方は非現実的な話である。
・計画を変更することは失敗ではない。
・キャリアの選択に関する最大の迷信は、この世のどこかに、自分にぴったりの仕事が存在するという考え。
・「私にぴったりの職業は何でしょうか?」。正直なキャリアカウンセラーなら、こう答えるしかないでしょう。
「”びったり”な職業などというものは、あなたにも、他のだれにも存在しません。もしあったとしても、どうやってそれを見つけたらいいのか私にはわかりません。ただ、私たちにできるのは、あなたがより満足のいく人生をつくれるように行動を起こすお手伝いをすることです」
考えてみれば、予測不可能な人生の中で、また様々な人と出来事の影響を受け続け、自分も変わっていく中で、描いたキャリアは変わらないはずはなく、また、結果などわからない。
ところが、私たちは、小さいときから自分のキャリアを描き、それが思い通りにならなくなったとき、激しい挫折感を味わう。
若いときから自分のキャリアを考えることはけっして否定されることではないが、現実的でないのだ。
この点につき、この本の訳者である慶應義塾大学の花田光世先生は巻末でこう述べている。
従来のキャリア理論は、目標を定め、自分や周囲の状況をキッチリと理解し、それに対して自分のスキルアップや知識向上の計画を策定し、それを粛々とこなしていくことが重要というものでした。
ただし、一方で、行動しなければ何も生まれない。これも、また真実である。
著者は「結果がわからないときでも、行動を起こして新しいチャンスを切り拓くこと、偶然の出来事を最大限に活用することが大事」と述べている。
そして、この本は偶然な出来事に遭遇した45人の事例を紹介している。
興味深いのは、著者自身も「ジョンのケース」として事例に入っていることだ。
ジョンは大学時代、テニスにばかり夢中になり、専攻分野を決められず退学の危機にあった。
いよいよ、今日の夕方5時までに専攻を申請しないと退学になるという午後4時に、テニスのコーチであるウォーラー先生の下に駆け込んだ。
ウォーラー先生がたまたま心理学の教授であったことが、のちの心理学者クランボルツの進路を決めることになった。
また、ジョンは子どもの頃、将来はプロ野球の選手をめざしていた。ある試合で、打席に入ったジョンの頭めがけて時速140キロの剛速球が飛んできた。思わずグランドに伏せたジョン。ただ、そのボールはホームベースの真上でカーブしストライクになった。
この一球で、プロ野球選手になるというジョンのキャリアプランは変更になった。
著書も身をもって、偶然の出来事の影響を知ったのだ。
さて、「偶然を活かす」というと、いかにも成功者のストーリーのように聞こえる。
しかし、この本に紹介された45人は「普通の人」である。
要は、誰にも偶然の機会が訪れているということだ。
ただ、偶然の機会を活かした人は、「何か」必ず行動をとった人であり、偶然の出来事をオープンマインドに受けとめた人だといえる。
著者は「願うこと以外にあなたがすること、それが重要な部分」と述べているが、それは行動である。
最後に、著者の次の言葉を紹介しておきたい。
「能力とは学びの成果だと考えることで、全力を尽くそうという気持ちがわき、自分自身の中で壁をつくるようなことを避けることができる」
「学習し続ける存在」として人間を考えたクランボルツの言葉である。
目次
第1章 想定外の出来事を最大限に活用する
第2章 選択肢はいつでもオープンに
第3章 目を覚ませ! 夢が現実になる前に
第4章 結果が見えなくてもやってみる
第5章 どんどん間違えよう
第6章 行動を起こして自分の運をつくりだす
第7章 まず仕事に就いてそれからスキルを学ぶ
第8章 内なる壁を克服する
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