浅田次郎の『おもかげ』

定年を迎えた竹脇。送別会の帰りに地下鉄の中で倒れた。
集中治療室に運ばれた竹脇は、ベッドに横たわる自分の体を横目に彷徨う。

 

クリスマスの夜の新宿高層ビルで、静かな入江、地下鉄の中……。

 

おもかげ

 

 

なぜ、竹脇はそんな世界を彷徨ったのだろうか?
誰と会っているのだろうか?

 

 

私たちもそんな世界を彷徨っていることがある。
夢の世界だ。
情景がクッキリ描かれることもあれば、ぼんやり浮かぶこともある。
登場人物の中に、忘れかけていた人がひょっこり顔を出すこともある。
それが夢の世界におさまっている。

 

「現実」の世界とは違うが、心に存在している「世界」なのかもしれない。

 

 

情景の描写が、自分が体験しているかのように見事だ。
彷徨った光景が、糸を紡ぐように結ばれる。
物語の折り畳みに心を揺さぶられる。

 

 

竹脇は「おもかげ」を求めて、彷徨ったのだ。
心の中で思い続けていたものを求めにいった。
母のもとに。

 

 

浅田文学の最高傑作だ。

 

 

おもかげ
浅田 次郎
毎日新聞出版 (2017-11-30)

 

2019年1月13日