上司の傾聴力

いまの時代、上司は傾聴力を求められている。
傾聴力は多くの会社の人事評価項目にハッキリと謳われており、ウエイトも高い。
多面評価の項目にも入っているはずだ。

 

しかし、傾聴に関する記事はウエブサイトなどに数多く掲載されているが、上司の傾聴力となると、なかなか見当たらない。
そこで、上司の傾聴力のポイントについて、みなさんと一緒に考えていきたい。

 

 

1.傾聴とはストーリーを引き出すこと

 

傾聴については、非常に多くの記事があり、読めば読むほどわからなくなってしまうかもしれない。
しかし、タネ明かしすると、ほとんどの記事はロジャースの来談者中心カウンセリングの基本態度に立脚している。
まず、その内容から確認してみよう。

 

(1)ロジャースの来談者中心カウンセリングの基本態度

 

下記内容はカウンセリングを想定しているので、カウンセラーを上司に、クライエントを部下に置き換えてもらいたい。

 

①受容的態度

カウンセラーは、クライエントに対して無条件の肯定的関心を持つこと

②共感的理解

カウンセラーは、クライエントの内的世界を共感的に理解し、それを相手に伝えること

③自己一致または誠実な態度

カウンセラーは、クライエントとの関係において、心理的に安定しており、ありのままの自分を受容していること

 

(注)上記記述は、『キャリアコンサルティング理論と実際(5訂版)』(木村 周 雇用問題研究会)から引用

 

どうだろうか? だいぶ、みなさんが読んだ記事のベースが見えてきたのではないだろうか?
もう一つ押さえておきたいことは、現在のカウンセリングの主流はマイクロカウンセリングという技法を基にしていることである。
みなさんが読んだ記事のなかにあった、かかわり行動(視線の合わせ方、身体言語、声の調子、言語的追跡)、はげまし、いいかえ、要約などは、マイクロカウンセリング技法の内容である。
マイクロカウンセリング技法には『マイクロカウンセリング技法ー事例場面から学ぶ―』(福原眞知子監修 風間書房)という本家本元の本がある。
そこでは、傾聴をどのように述べているか、確認してみよう!

 

(2)マイクロカウンセリング技法での傾聴についての説明内容(抜粋)

 

「傾聴することは、クライエントのストーリーを引き出すのに非常に有効に作用します。
(中略)
各面接の場面では、その人がどのような世界で生きてきたのか、そして今どのような問題を抱え、その問題をどのように捉え、どのように感じ、どうしたいと思っているかなどを理解していくためにストーリーを引き出すことが重要です」

 

霧がパッと晴れたようなわかりやすい説明ではないだろうか?
これが、本家本元の説明なのだ。

 

傾聴というと、とかく「相づちを打つ!」「オウム返し」などのテクニックを思い浮かべる人が多いかもしれない。
実際、傾聴に関する記事を読んでそう感じた人も多いと思う。
スキル的な面があることは否めないが、それよりも、傾聴そのものを理解することが非常に大事である。

 

「ストーリーを引き出す」-なんと腹に落ちる言葉ではないだろうか?
上司が部下の話を傾聴するときは、「ストーリーを引き出す」ことを考えてもらいたい。

 

「ストーリーを引き出す」と考えると、「どうしたら、ストーリーを引き出せるか?」と考えることができる。

 

どのようにすれば、部下のストーリーを引き出すことができるだろうか?
ここは、みなさんの頭で考えてもらいたい。

 

それは、部下を話しやすくさせるというということではないだろうか。
そのためには、部下の話に、ロジャースがいう肯定的関心を持ち、共感的に理解することが必要だ。

 

また、聞くという姿勢も非常に大事ではないだろうか。
腕を組んだまま「フムフム」とうなづきながら聞いていたとしたら、それは「聞いてやっている」ということである。
また、だらしない格好で聞いていたとしたら、それは、とても真剣に聞いているとは思えないということである。
そんな上司に部下は自分のストーリーを話すことなどない。

 

傾聴について、枝葉の知識を得ることより、まずは聞く姿勢ができているか確認することが重要である。

 

 

2.傾聴しているつもりだが、傾聴になっていないケース

 

多くの上司は、部下の話を傾聴していると考えている。
冒頭に述べたように、多くの会社では、傾聴力は人事評価項目になっているため、上司は意識して部下の話を聞こうとしている。
だが、多面評価の結果を見ると呆然とする。部下は「話を聞いてもらえてない」と回答していることが多いからだ。
上司と部下の感覚の差は何だろうか?

 

(1)自分の枠組みで部下の話を聞いてしまっている

 

上司は部下を励ましたり、アドバイスを送ることを、自分の役目と考えている。

 

その気持ちは非常に大事だが、部下の話を聞くとき、そのことを前提にすると、つい、「心配するな」「誰もが経験してきたことだ」「それはおかしいぞ」などと、自分の意見をはさんでしまう。
しかし、その言葉は上司の枠組みから出てきた言葉なのだ。
部下には部下の枠組みがあり、その枠組みに基づく言葉をシッカリ聞くことが大事なのである。

 

上司は自分の価値観で部下の話を聞かないことである。
また、自分の思い込みや推測で話さないことである。もちろん断定的な言い方も避けるべきである。

 

部下は、上司の枠組みで聞かれていると思うと、それ以上、話さないはずである。

 

 

(注)マイクロカウンセリングに<はげまし>という技法があるが、この場合の<はげまし>は、「ええ」、「それで」といったものや、クライエントの言葉と短く繰り返すなど「言語」によるものと、うなずきのような「非言語」によるものをいっている。(前述『マイクロカウンセリング技法』より)
つまり、相手が語ることを励ますという意味である。

 

(2)黙って聞くことが傾聴だと思っている

 

傾聴というと、黙って部下の話を聞くことだと思っている上司は多い。
そういう上司は、自分は傾聴できていると考えている。

 

もちろん、部下の話を最後まで聞くことは大事だが、なぜ、このことが傾聴といえないのか、みなさんの頭で考えてもらいたい。
そう、それでは、部下からすれば、本当に自分の話を聞いてもらているか、わからない。
また、非常に話しづらいはずだ。
さらに言えば、部下の話に能動的に関わろうという気持ちも感じられない。
そんな上司を前に、部下はとても自分のストーリーなど話す気持ちになれない。

 

 

3.WHYより、WHAT

 

私たちは、いつからWHYという言葉をよくつかうようになったのだろうか?
WHYと問えば、解決するものだと思い込むようになった。
上司も部下との話のなかで、「なぜ、できないのか?」「なぜ、やらないのか」と、WHYを連発している。
WHYはオープンクエスチョンなので、問われたほうは自由に答えることができるが、WHYをあまり多用すべきではない。

 

WHYと問われた立場になって考えてもらいたい。
WHYと問われたならば、理由を言わなければならない。
ただ、理由をハッキリと言えないことも多いのではないだろうか。
そんななかで、WHYと問われると、なにか詰問されたような気持ちになり、自分で理由を必死に考える。
そこで出てきた理由は、追い詰められたなかで無理にあてはめた理由であり、本来、自分が感じたこと、話そうとしたこととは異なるのではないだろうか?

 

WHYと質問されると、部下は自分のストーリーを話せないのだ。

 

ここを、「できなかったことは何?」「何ができなかったんだろう?」、あるいは「できなかった理由は何?」と、WHATに置き換えると、ずいぶんと答えやすくなる。
部下の話を聞くときは、WHYよりwHATだ。

 

オープンクエスチョンは相手が自由に話せることから、とかくよい質問と分類されがちだが、そう考えることは間違いである。

 

 

4.傾聴の模範動画の紹介

 

私たちが傾聴について、腹落ちしていない理由の一つには、模範例を見ていないことが挙げられる。
ネット上には、さまざまな傾聴の動画が紹介されているが、「どこが傾聴のポイントなのだろう?」とわからない人も多いのではないだろうか?
率直に言って「傾聴って、相手の話に合わせること?」と思う人も多くいるはずである。

 

じつは、これぞ傾聴という動画が厚生労働省のHPに掲載されている。
キャリアコンサルティング技法に関する動画だが、どのような問いかけを行えば、人はストーリーを話すかということを知るうえで、非常に参考となる。
部下を持つ上司だけでなく、すべての人に役立つ動画である。

 

(参考)厚生労働省HPへのリンク
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/career_consulting_gihou_00004.html

「平成30年度 労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業」から、「各キャリアコンサルティング技法に関する動画」に進み、「治療と職業生活の両立支援」という動画の内容を見ていただきたい。

 

動画時間は37分弱あるが、18分目、24分目あたりから始まるロープレ部分に絞って見ていただいてもかまわない。

カウンセラーの言葉だけでなく、カウンセラーの姿勢、視線、服装にも注目してもらいたい。

 

カウンセラーはがん治療と職場生活の両立を考える女性にこんな言葉をかけている。

(下線は上司が部下に聞くときの参考になるように、筆者がつけた)

 

「いまのお仕事を続けられるかどうか不安ということですね。もう少しお聞かせいただけますか

「この仕事を続ける自信がなくなったということですけど、何があったんでしょうか?

「そうですか。たいへんでしたね。もう少しお聞かせいただけますか

「そういうときは、どうされているんですか

「疲れている顔を見せられないことでつらいところ、頑張っておられるんですね」

「前の私。そんな田中さんがいらっしゃったんですね」

「前の田中さんって、どんな私なのでしょうか?

「田中さんが大事にされてきたことなんですね」

「ご自身の大事にされていることを改めて言葉にされて、いま、どのように感じられていますか?

「それを大事にしながら、今後、何ができそうですか?

「そうですね。たいへんな経験されましたものね」

「さっき、田中さんがおっしゃった思いのようなものも話していかれると、いいんじゃないですかね」

「いまの田中さんの表情、とてもいいですよね」

「田中さんの会社では、どんな可能性が考えられますか?

 

上記は、カウンセラーの問いかけのごく一部にすぎないが、こんな言葉を目にしただけで、相談に訪れた女性に寄り添う気持ちが十二分にうかがえるはすである。

寄り添う気持ちがあれば、相談者は自分のことを話し出すのだ。

 

驚くことは、カウンセラー役の女性の聞く姿勢だ。
ここが私たちが見る動画とはまったく異なる。
身振り手振りなどなく、体が相談者と向き合ったまま動かない。
姿勢の安定感が、信頼感を醸し出している。
カウンセラーは、身振り手振りなどして自分を表現することは一切していない。
あくまでも相手の話を聞き、相手の話の中から問いかけるという姿勢を、まったくくずしていないのだ。
そこには、終始一貫、相談者に寄り添う姿がある。

 

視線も相談者を包み込むようにあたたかい。
服装にも注目してもらいたい。その場に溶け込むような真摯な服装だ。

 

質問も、相手が答えやすいHOW、WHATがつかわれていることに、着目いただきたい。(下線参照)

 

 

なお、前述した『マイクロカウンセリング技法』にも事例場面をまとめたDVDが収録されている。

 

 

まとめ

 

傾聴は、さまざまな知識を駆使しようと考えるより、傾聴する姿勢が大事だ。
傾聴のテクニックばかりが頭に入っていると、話を聞いているときもそんなことが頭を覆うはずだ。
そんなときは、とかく頭の中は相手への質問ばかり考えている。

 

それよりは、「相手のストーリーを引き出す」と考えるほうが、部下の話を聞きやすくなるし、また、部下も話しやすくなる。
「相手のストーリーを引き出す」という気持ちが、姿勢となるのだ。

 

じつは、相手の話を促す究極のオープンクエスチョンがある。
それは模範動画にもたびたび出てくる「もう少し聞かせていただけますか」である。
部下との間では、「もう少し詳しく話してくれない」でOKなので、ドンドンつかっていただきたいと思う。
そうすれば、部下からすれば、ストーリーを促されたことになる。

 

もう一つポイントがあるとすれば、「部下の枠組みで話を聞く」ということである。

 

自分の枠組みにとらわれないことは重要だが、あまり、そのことを意識すると、たえず自分の頭の中で確認しなければならなくなる。
それならば、「部下の枠組みで話を聞く」と考えたほうが、部下の話を聞きやすくなる。
「部下の枠組み」で聞くと、不思議なことに、部下が話したいことがわかってくる。

 

 

 

 

 

『マイクロカウンセリング技法ー事例場面から学ぶー』

 

 

 

 

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