中谷彰宏氏の『チャンスをつかめる人のビジネスマナー』

中谷彰宏氏がビジネスマナーの本を出している。
中谷氏が書いた本を読むと、マナーは自分の世界で自分が決めていることがよくわかる。
自分で「よし」と決めたマナーが、はたして最高のマナーと言い切れるだろうか?
マナーは上には上があるのだ。
中谷氏の言葉を借りれば、「『自分はマナーができている』と思うのは、マナーのレベルが低い人であり、マナーのレベルは、無限に上がある」ということになる。
この「無限に上がある」というところが肝心だ。

 

中谷氏は「マナーのある人」と「マナーがない人」に分かれるのではなく、「マナーが伸びていく人」と「マナーが伸びていかない人」とに分かれるという。
いまの自分のマナーは、いまの自分を取り囲む環境のなかで決定しているに過ぎない。
そのことが自分の世界と自分のビジネスを決定してしまっている。
中谷氏は「ビジネスの点数は、マナーの点数を超えない」と述べている。

 

格上のマナーとはいったい、どんなマナーなのだろうか?
先に一例を挙げておきたい。
本の帯にもなっている「ドアの高いところをノックする人が、合格する」を挙げると、ノックは高いところで叩くと、明るく、優しい音になる。
ビジネスマナーの本はノックの回数にこだわっているが、格上の人はノックの音を気にしているのだ。
これで、少しはおわかりになったと思う。

 

 

正直言って、この本のレベルは高い。「ビジネスマナーは仕事をするうえで必要とされるマナー」といった枠組みをはるかに超え、ビジネスマナーがその人の世界とビジネスを決めることを示している。
この本の読み方はさまざまだが、「自分はマナーができている」と思っている人にぜひ読んでもらいたい本である。

 

本には67のメッセージがあるが、「自分はマナーができている」と思っている人が、はまりやすい箇所を抜き出していきたい。
著者が述べていることを一行で示し、コメントは筆者が記載した。

 

・知っている人にも挨拶に行く(10から)

パーティを新しい人に知り合うチャンスだと考える人は多い。それはそれでけっこうだと思うが、「マナーができている」と思っている人は、紹介の受け方、知り合った人との会話がうまくできていると考えている。しかし、その場では、知り合いにもシッカリ挨拶するのがマナーなのである。

 

・お礼状に会社の便箋・封筒を使うのはNG(12から)

このことは見落とされていることである。著者は「仕事だからしているという印象は、ビジネスマナーとしてはアウト」と述べている。

 

・挨拶で一番にすることは、お礼(15から)

ビジネスマナーの本は初対面の場で、話の糸口を見つけ出そうといろいろ工夫を凝らしている。しかし、最初に「いつも弊社がたいへんお世話になっております」とお礼を述べたなら、ずいぶんと違う展開になるだろう。お礼の材料を考えることもマナーなのである。

 

・挨拶で大切なのは、相手と自分の話をすること(16から)

これは、「自分はコミュニケーション上手」と自負している人への注意の言葉である。そんな人たちは、話を展開しようと思い、人の名を出し話をはずませようとする。そこには、自分が認められた存在であることをアピールする狙いがあるのかもしれない。しかし、それはマナー違反なのである。

 

・実際の勝負は、開場時間から開宴時間の間で終わる(17から)

このことはビジネスの世界で上の立場の人がよく実践していることである。パーティに入ってしまうと話したい人と話せないことが多いからである。

 

・格上のマナーでは、立食のビジネスパーティがある時は先に食べていく。会場ではグラスも持たない(18から)

パーティで多くの人と懇親を深めようと思うならば、食べる時間などない。心得た人は先に食べていく。
また、マナーの本ではグラスの持ち方にこだわっているが、握手する手が冷たくならないように、そもそもグラスを持たない人がいるのだ。

 

・「こんな本を読んだらこんなことが書いてあった」というAグループと、「ネットにこんな情報が出ていた」というBグループとでは、会話のレベルが違う(23から)

グループの会話のレベルというものはきっとある。「あの人はこんなことを言っていた」と話す人たちにも、これと同じことが言える。本を読んだことを話すということは、自分の頭の中に入ったものを抽出して吐き出すということである。自分の体を通過した話かどうかということがポイントだと思う。

 

・ペン先を向ける人から、人は離れていく(45から)

ナイフでも同じである。マナーが身に付いている人は、モノの先端を人に向けないという共通点がある。
ちょっと話は飛ぶが、奇しくも、この本と浅田次郎氏の『流人道中記』の発売がほぼ重なった。『流人道中記』の主人公乙次郎は、最初の宿場である千住掃部宿で流人である高家旗本青山玄蕃の朝食する姿を見て驚いた。けっして箸の先端を乙次郎向けなかったからである。
これが本当にマナーが身に付いているということなのだろう。

 

・プリントアウトしやすい形で、送る(46から)

ビジネスの現場で意外にできていないことである。こんなところでガッカリすることがしばしば起きる。その人の仕事ぶりを端的に示しているので注意する必要がある。

 

 

どうだろう?
自分が気づいていないことも多いと思う。
気づくことにより、自分の世界を広げていく。
それが、著者がいう「マナーが伸びていく人」ではないだろうか。
きっと、ビジネスの幅も広がるはずである。

綾小路亜也

 

 

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