動機づけ理論の提唱者の論文をまとめた『動機づける力』

2023.06.10更新

 

動機づけ理論は、キャリア理論の要約書を読んだり、セミナーなどで講師の話を聞くと、わかった気になるものだ。

 

しかし、それは提唱者の理論の極々一部にすぎない。

しかも要約書の執筆者がまとめたものを読み、講師という介在者を通して話を聞いている。

 

きっと、提唱者の考えはそんな簡単なものではないのだろう。

 

そんなことを考えたとき、格好の本がある。

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳の『動機づける力』だ。

 

 

ここには、名前を聞いたことがある理論家の論文が掲載されている。

提唱者自身の声を聞き、思いを知ることができるのだ。

 

本書で、わかったつもりが、まず打ち破られるのはマクレランドの理論だろう。

 

マクレランドは、「達成動機」「権力動機」「親和動機」の3つの動機に注目したことで知られている。

 

私たちが知っているのは3つの動機があるというくらいで、3つの動機を並べられると、「このなかで『達成欲求』が大事だよな。たしかに『権力動機』が強い人もいるけど」と自分ながらに解釈し納得してしまう。

 

しかし、マクレランドが言う権力動機は、権限を振りかざすことではなく、前向きなインパクトを与え、強い立場から影響力を行使したいという欲求のことである。

 

そして、次のように驚くべきことが書かれている。

「達成動機」による行動が、必ずしも優れたマネジメントにつながるとは限らない。(中略)
(職場の・部門の)モラールの高さを決定づける最も重要な要素は、権力動機が達成動機よりどれくらい高いかではなく、権力動機が部下に好かれたいという欲求(これは「親和動機」と言う)よりも高いかどうかによることがわかった」と述べているのである。(第6章)

 

 

衛生要因と動機づけ要因で知られるハーズバーグの論文も掲載されている。



ハーズバーグはそのなかで、こんなことを言っている。

 

「いま衛生要因に割かれている時間と費用をごくわずかでも、仕事の充実化に振り向ければ、そこから得られる人間的満足と経済的効果は、企業や社会がこれまで人事管理の改善から得てきた配当のなかでも、とりわけ大きいものの一つとなろう」

 

 

これがハーズバーグの思いではないだろうか。

 

キーフレーズは「仕事の充実化」だ。

 

私たちは仕事の充実化を図るとき、仕事の拡大をしてしまう。

 

たとえば、社員たちをより高い生産量へ挑戦させる、いまの仕事にもう一つ無意味な仕事を付加する、充実化を図るべき仕事を順番に割り当てる、その仕事で最も困難な部分を取り除き、労働者たちを解放し、それほど難しくない仕事を数多くやらせる、といった類である。(第1章)

 

 

新しい動機づけ理論は知っておいたほうがいいだろう。

 

ポール・R・ローレンスとニティン・ノーリアは

・獲得への欲動 ・絆への欲動 ・理解への欲動 ・防御への欲動という

4種類の欲動の存在を指摘している。

 

重要なことは、ある欲動の数値が低いと、残り3つの数値がいかに高くとも、全体へのインパクトは下がることである。

 

このことは、モチベーションを組織的に底上げするときに、4種類すべてに同時に取り組んだほうが成果は大きいことを示している。(第2章)

 

 

テレサ・M・アマビールとスティーブン・J・クラマーは認識や感情が絡み合い、モチベーションにたえず影響を及ぼし、その日のパフォーマンスが決まると述べている。

 

注意すべきは、認知と感情は別々の精神構造ではなく、相互かつ複雑に絡みあっているということだ。

あるプロジェクトメンバーにつけさせた日誌にこのことは顕著に表れている。

 

また、彼らは、上司の行動として重要なことは、部下の肩をたたいてほめたり励ましたり、また職場を楽しい雰囲気にしたりしても、あまり意味がなく、

大切なのは、仕事を進捗させること、人間として尊重することだと、研究の結果から述べている。(第3章)

 

 

ハリー・レビンソンは、「目標管理」(MBO)は、マナージャーと部下の間に敵意や恨み、不信感を生み出し、これらがすっかり定着および強化されてしまったと述べている。

 

それは、モチベーションにおける感情的要素が適切に考慮されていないからだとしている。(第4章)

 

 

ターリング・リビングストンは、よく知られているピグマリオン効果について述べている。

 

部下の能力やスキルを超えた期待は逆効果になる。そして(マネージャーの)自分の能力への自信が期待を裏付ける。(第5章)

 

 

ジョン・J・モースとジェイ・W・ローシュは、X理論でもY理論でもない「コンティンジェンシー理論」を説明している。

 

ある大企業の工場と研究所の調査結果が示したものは、適正な組織パターンは、業務の性格および関与する人事におけるニーズによって異なるということである。(第8章)

 

 

どうだっただろうか?

ほんのさわりだけの紹介だが、自分が抱いていたものとちょっと趣きが異なっていたのではないだろうか?

 

すべて研究に基づく成果であり、実際のビジネスに活かせる内容だと思うので、おすすめの本だ。

 

 

動機づける力

『動機づける力』表紙

 

目次

第1章 モチベーションとは何か

第2章 新しい動機づけ理論

第3章 知識労働者のモチベーション心理学

第4章 MBO失敗の本質

第5章 ピグマリオン・マネジメント

第6章 モチベーショナル・リーダーの条件

第7章 「理想の職場」のつくり方

第8章 Y理論は万能ではない

第9章 本物のリーダーは社員と業績を秤にかけない

 

 

 

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