2024.10.12更新
ビジネスでは、自己紹介が長いというだけで嫌われます。物理的な時間に加え、アピールする意図を感じるからです。
その結果、「自分中心の人」という印象を与えてしまいます。
一部のビジネスマナーの本には「名前由来トーク」なるものが掲載されています。
そのことを語ることで、自分を印象づけたいからです。
たしかに難しい名字のときは、読み方は話しておいた方がよいでしょう。
自己紹介の究極は「名前だけでも覚えてもらう」ことだからです。
しかし、本にあるような、よくある名字の説明や、名前の由来などを、人は聞きたいと思うでしょうか?
話が長いということは2つの面があります。
一つは、物理的な時間です。
何かを意図すると、それに要する時間は、本人が考えていたより長くなります。
試しに、自分の名前の由来を、ストップウォッチ片手に話してください。
とても30秒では収まらないはずです。
1分、いや、それ以上かかります。
そんな話を人に聞かせているのです。
名前の由来トークを話すと、全体では社会人の自己紹介時間の目安3分には、とうてい収まりません。
もう一つは、聞きたくもないことを聞かされているという感覚です。
聞く側からすれば、そんな時間は途方もなく長く感じます。
自分をアピールする内容も同様です。
ほとんどの人はそんな話を聞きたいとは思っていません。
それを聞く時間は、物理的にも、感覚的にも長いのです。
すると、聞く側は自己紹介から何を求めているのでしょう?
究極の目的は、顔と名前を一致させることです。
プラスアルファとして、話し方、姿勢から、その人を窺い知ることです。
ということは、自己紹介の基本形である、
1 あいさつ
2 所属と名前
3 意欲の表明
を言えばよいということになります。
この3つの要素を、石川和男氏と宮本ゆみ子さんがコラボした『最新ビジネスマナーと 今さら聞けない仕事の超基本』(朝日新聞出版)では、「ビジネスで自己紹介する場合に欠かせない3要素」と呼んでいます。
「名前だけでも憶えてもらえれば、ひとまず自己紹介は成功」と書かれています
だから、型通りの自己紹介しかできないからといって、悩む必要などないのです。
聞く側は、とどのつまりは、自己紹介の3要素を知りたいからです。
今度は、嫌われるという側面を掘り下げてみましょう。
いままで述べてきたことは、自己紹介が長いことに対するウンザリ感でした。
そして、自己紹介が長いと、それ以上のことを人に植えつけてしまいます。
みんなの時間を奪っているという評価です。
自己紹介にはさまざまな場がありますが、職場に配属されたとき、他の配属された人と一緒にみんなの前で行うことが多いと思います。
新入社員として入社したときも同じです。
そんなとき、自己紹介が長いと、他の自己紹介する人の時間を奪っているということにもなるし、自己紹介を聞く人の時間を奪っているということにもなります。
その結果、自分勝手な人だと思われてしまうのです。
さらに、その内容に自分を知ってもらうことが色濃く出ていたり、アピールに重点が置かれていた場合は、「妙に売り込む人」「変な人」というレッテルを貼ってしまいます。
つまり、自分をアピールする人は、自分のなかでは満足感を覚えるかもしれませんが、人の不快感にも通じているということを忘れています。
ビジネスマナーの本のなかには自己紹介にこだわる本があります。
その心は、自己紹介の場面から人に「差」をつけることです。
このことがよくわからないのです。
ビジネスマナーの本ならば、もっぱら「みんなの時間」に焦点が置かれるはずです。
それがマナーだからです。
それなのに、なぜアピール、売り込むという言葉が記載されているか、わからないのです。
自己紹介はその会社、その職場でのスタートにすぎません。
自己紹介の場で「差」が生まれるわけではありません。
これからの仕事振りやコミュニケーションで「差」が生まれるのです。
無理やり最初から「差」をつけようと思うと、逆効果になることは述べたとおりです。
自己紹介の記述については、ビジネスマナーの本だけではなく、ビジネス書に書かれていることも多いので、そんな箇所にぶつかったときは、目をとめてください。
ビジネス実務の長い人ほど、簡潔さを求めていることに気づくはずです。
それは実際に多くの人の自己紹介を見聞きしてきたからです。
最後に、一点だけ、アドバイスを送ります。
自己紹介の3要素についてお話ししましたが、そこに一点足すときの話し方です。
その際の基本は、自分が話したいことより、人が知りたいことを話すことです。
それは、自分がどういう人かの一端を示すものです。
たとえば、大学時代、野球をやっていた人は、そのことをどう表現するでしょうか?
話すとなると、往々にしてこんな話し方になってしまいます。
「私は大学で野球部にいたんですが、いや、ちゃんとした野球部です。体育会です。私は4番バッターでけっこう打ったんです。3年の秋には明治神宮大会で準決勝まで行きました。その際の対戦相手は〇〇大学でけっこう強い相手でした。じつは7回までリードしていたんです。8回に満塁ホームランを打たれ負けてしまいました。……」
これが、実際に人前で話すときの内容です。
しかし安心してください。
誰もがこのような話し方になってしまうのです。
述べてきたとおり、ひと言付け足すだけでも、話はこのように長くなります。
まして、自分をアピールする人の話は、聞く人がうんざりするほど長くなることは容易に想像がつきます。
この内容を次のように話せないでしょうか?
「私は大学時代、体育会野球部に所属していました。(こう見えても)4番だったんです。明治神宮大会の準決勝まで行くことができました」
工夫したことは「所属」という言葉を用いたことです。
このように要約した言葉を思いつくと、それだけでも話はスッキリします。
話自体、要約されていくのです。
話の準備をするとき、要約できる言葉がないか考えてください。
(こう見えても)という言葉は、応用編です。
つかってみると、けっこうおもしろいです。
見かけと事実が異なると、聞くほうは笑いを覚えるし、「エ―ッ?」という驚きとともに、その人に関心を寄せるからです。
じつは、話が上手い人は話が簡潔で、それでいて聞く人の関心を呼ぶ言葉を上手く入れています。
参考にしてください。
綾小路 亜也
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