「アンヂェラス」のケーキ

私が書いた「ミカワヤ」のケーキの記事に、毎日、訪ねてくれる人がいる。
(記事 http://goo.gl/X3EJKB 参照)
「ミカワヤ」のケーキは、いつまでも浅草の人の心に消えないで残っているからだ。
私は、「お世話になったから」「気をつかってもらったから」と言っては、お返しの「ミカワヤ」のケーキを持って歩くおかあさんのことを『浅草のおかあさん』第8話で書いた。
ただ、その中で、私は「ミカワヤ」のケーキと同じくらい「アンヂェラス」のケーキのことも書いている。
「ミカワヤ」のケーキと「アンヂェラス」のケーキ。両者の趣きは異なるが、共に浅草を代表するケーキであり、片方の存在なしには語れないところもあるのだ。
「ミカワヤ」と「アンヂェラス」がオレンジ通りに並んであったということも、いまから考えると、ものすごく不思議な感じがするのだが、その光景は、なぜか浅草の街に合っていた。

 

「アンヂェラス」はいまでも健在だ。
私は「アンヂェラス」のケーキの中でも、店の名をとった『アンヂェラス』を、みなさんに食べてもらいたいと思っている。
『アンヂェラス』はクリスマスの薪の形をしたノエルだが、外側をホワイトチョコレートで包んだものとミルクチョコレートで包んだものと二種類あり、共にバタークリームをベースにしているミソだ。
フォークを当てたときのパリッとした感覚がたまらない。
その味は、何十年も経っても、いっこうに変わらない。
私は、その味が忘れなくて、いまでも、浅草に行っては『アンヂェラス」を買っている。

 

この『アンヂェラス』を食べると、古きよき浅草の世界にかえったというか、自分の青春時代にかえったというか、なつかしさがこみあげてくる。
自分はその時代にたしかに浅草にいた! という感覚にもなるし、浅草の街が私を育ててくれたという思いまで私の胸を襲ってくる。
考えてみれば、時間を遠く経ても、変わらずおいしいということは、すごいことではないだろうか。
これが浅草の真骨頂のようなものであり、浅草の自慢なのだ。「小柳」の鰻、「三定」の天ぷらをはじめ、浅草の老舗の食べ物は、みんなそんな浅草の特徴のようなものを持っている。

 

「アンヂェラス」は、川端康成先生、池波正太郎先生、漫画家の手塚治虫先生が通った店として知られている。昭和21年創業の歴史ある店なのだ。
先日、「アンヂェラス」に行き、名物の水出しコーヒー「ダッチコーヒー」にケーキを頼んだ。
奥のテーブルに、ひと目で浅草のおかあさんたちとわかる四人組が、やはり「ダッチコーヒー」にケーキを頼んで談笑していた。
なぜ、ひと目で浅草のおかあさんとわかるのか?
浅草のおかあさんたちの顔は、ちょっときついが、端正だからだ。
「これも、浅草自慢の一つだ」と思い、微笑んでしまった。

 

 

 

店の名物『アンヂェラス』

 

 

 

浅草に「浅草のおかあさん」と呼ばれた女性がいました

浅草のおかあさん

浅草のおかあさん

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2018年6月16日