シュロスバーグの転機を乗り越える3つのステップ

2023.06.27更新

 

シュロスバーグの転機(トランジション)についての考え方を、一般のビジネスマン・ビジネスウーマン向けにわかりやすく解説しました。

 

私たちは「転機」という言葉をよく使います。

 

しかし、どのようなことが転機となるのか深く考えず、転機に遭遇しても、転機の中身まで見定めることまでしないのではないでしょうか。

また、転機は個人によって異なることから、転機の対処法も人から教わることもありません。

 

つまり、私たちは転機の意味を漠然と解釈し、転機に遭遇しても、それぞれが個人的に解決方法を見出していることになります。

 

 

ところが、どんな転機でも、「見定め」「点検し」「受け止める」ことで必ず乗り越えられる、と言う人がいます。

 

ナンシー・K・シュロスバーグです。

 

シュロスバーグは、出来事そのものではなく、それをどう受け取り、どう対処していくかが重要であると説くのです。

 

 

1.シュロスバーグが考える転機

シュロスバーグの理論に入る前に、転機とは何かを、考えてみる必要があります。

 

みなさんは、転機というと、どのようなイメージを持ちますか?

 

年齢の移り変わりによる役割変更のようなものを思い浮かべる人もいれば、「あのことが私の転機になった」といったように、ある出来事を指す人もいるかと思います。

 

じつは、いずれの考え方もあります。

 

転機についての視点は、次のように考えられています。

 

1.発達段階の移行期としての転機

2.人生上の出来事の視点から見た転機

 

1は言葉として少しわかりづらいかもしれませんが、私たちは意識しています。

 

私たちは企業に入ると、一生懸命、一人前の社員になろうと努力します。
そのうち中堅社員と呼ばれるようになり、やがて管理職となります。

 

そして、いつかは後輩にポストを譲り、引退します。
そんな年齢による役割変更のイメージです。

 

ここで「発達」「段階」という言葉が使われているのは、従来からあるキャリア理論はキャリア発達理論であり、ある年齢段階において人々が共通に遭遇する出来事や課題があると考えられているからです。

 

この立場に立てば、転機とは今のステージから次のステージへの移行を意味します。
「人生の節目」と考えるとわかりやすいかと思います。

 

私たちはそんなステージの変化を、たしかに「転機」ととらえています。

 

 

しかし、「転機」はそれだけでしょうか?

個人に起きることー結婚、離婚、転職、引っ越し、失業、本人や家族の病気なども、やはり、個人にとっては転機なのではないでしょうか。

 

ビジネスマンやビジネスウーマンにとっては、昇進、転勤なども重大な転機ではないでしょうか。
これが、2の「人生上の出来事の視点から見た転機」です。

 

 

シュロスバーグは、転機を、それぞれの個人におけるその人独自の出来事として捉えています。
(上記2の視点)

 

つまり、転機はあらかじめ決まっているわけではなく、常に存在しているというのが、彼女の立ち位置です。

 

そして、転機を次の3つのステップで乗り越えろというのです。

 

 

以下、彼女の著書である『「選職社会」転機を活かせ―自己分析手法と転機成功事例33』

(原題『overwhelmed』途方に暮れて)

に沿って、転機を理解するための構造を説明します。

 

大きな流れは下記のとおりです。

<ステップ1>「変化を見定める」

・自分の転機を認識する

 

どういう転機か

自分の役割、日常生活、考え方、人間関係(「人生の4つの局面」)はどう変わったか

転機の過程(今どういう段階にいるか)

<ステップ2>「リソースを点検する」

・転機を乗り切るためのリソース(資源)にはどのようなものがあるか

 

4つのS

①状況(Situation)

②自分自身(Self)

③支え(Support)

④戦略(Strategy)

<ステップ3>「受け止める」

・転機を乗り切るための戦略を立て、そのためのリソースを強化する

・行動計画を立てる

・変化を活かす―変化に対する選択肢、理解、主体性を充実する

 

それぞれについて説明します。

 

 

2.転機を乗り越える方法

<ステップ1>変化を見定める

「転機を見定める」ことは、転機を識別すること、転機のプロセスを理解するということです。

 

シュロスバーグは転機を次の3つのタイプに分けています。(転機の識別)

 

「予測していた転機」

「予測していなかった転機」

「期待していたことが起きなかった転機」
(ノンイベント型)

 

上記3つの転機を、「自分で選んだ転機」「突然の転機ー予期せぬことが起きるとき」「ノンイベントー予期したことが起きないとき」といった表現もしています。

 

彼女は「大切なことは、イベントやノンイベントそのものについて考えることでなく、起こったことによって『人生がどんなふうに、どれくらい変わるのか』を理解することであり、またそれに対して『どう対処すればいいのか』を理解することである」と述べています。

 

・転機のプロセス

転機とはある時点だけの出来事ではないのです。

 

転機がはじまったころの気持ちと、その後の気持ちとを眺めてみれば、転機とは一時点だけの出来事ではなく、「開始」「中間」そしてたいていは「結末」まである物語のプロセスなのです。

<ステップ2>リソースを点検する

前に述べた4つのSは、変化を支配する力になるものであり、「リソース(資源)を点検する」ことは、変化を支配する力をきちんと把握しておくということです。

 

具体的にどういうことなのか、著書の中の「自分への問いかけ」を記載しますので、みなさん自身も自分に問いかけてください。

 

①Situation(状況)=「自分のおかれた状況」

・その転機はどの程度のものか。

・どんなタイプであれ、その転機は今の、そして今後の生活をどう変えるか。

・その転機は予定したものか、タイミングとしては良いか悪いか、コントロールできるものなのか、前に同じような経験はあるか、そのときはうまくいったか、他にもなにか人生の問題を抱えているか。

 

②Self(自己

・転機となるようなイベントやノンイベントに直面するとき、自分は奮起して立ち向かうタイプか、途方に暮れるタイプか。どんなストレスの下で奮起するか。または途方に暮れてしまうか。

・転機に対して負けん気で立ち向かうタイプか、じっと耐えるタイプか。頑に拒否するタイプか、無気力になってしまうタイプか、神秘的な力にすがるタイプか。

・転機に直面するとき、自分が事態をコントロールしていると感じているか。通常、達成感が自分の歓びとなっているか。

・一般的に見て人生に対して楽観的か、悲観的か。

・自分自身を理解しているか。

つまり、「自分自身のなにを使って転機に対処するか」ということです。

 

③Support(周囲の援助)

・この転機においては、自分に必要な好意、肯定、援助がそれぞれ得られるだろうか。

・支援の範囲は、配偶者や伴侶、親密な家族や友人、同僚・協力者・隣人・組織、他人、制度など各段階にひととおり揃っているか。

・自分の支援体系、つまり「人的護送船団」は今回の転機によって弱体化しているか。

・自分の支援体系は今回の転機にとっては、リソースとして有力か無力か。

 

④Strategieis(戦略)

著書の中から具体例を紹介します。

 

・転機をつくり変える戦略
交渉する、アドバイスを求める、自分を主張する、ブレーンストーミングで別の道を拓く

 

・転機の意味を変える戦略
転機のプロセスに当てはめて状況をとらえる、転機に向けてリハーサルをしておく、儀式を工夫する、前向きの比較をする、優先順位を並べ替える、転機の評価を見直す、意図的無視―些細なことに悩まない、現実否認ーできるだけ現実を避ける(分別のある現実否認ー問題や現実に向かうことを『意識的に、または半分無意識に先送りする』こと)、ユーモアで苦境を乗り切る、信仰をもつことで転機を乗り切る。

 

・ストレスを難なく処理する
遊び、感情の発露、カウンセリング、セラピー、支え、リラックス

 

・なにもしないー意図的な不作為

 

戦略は人によって、状況によって異なるが、重要なことは、「戦略のレパートリーを広く持つ」ことである。
そして、多くの戦略を駆使することである。

<ステップ3>受け止める

転機に直面したとき、何をしたらよいのか、
自分の弱みを強みに変え、それを戦列に加え、転機を乗り越える力とするには、どうすればよいのか、ということです。

 

・変化を克服する行動計画

「行動計画」とは、自分の戦略と4つのSを組み合わせることである。
それによって変化の苦しみをやわらげ、問題を解消又は解決し、不利な点をも有効なリソースに転換できることができる。

・「低」と(自己)評価したSを改善するために、なにかをしたほうがいいか。その場合どの戦略を用いればよいか。

・やや不十分なSについては、改善を試みるべきだろうか。その場合どの戦略がもっとも適しているか。

・転機で生じた自分の気持ちを、読書、祈り、ジョギング、セラピーなどで処理していくほうがいいか。

・なにもしないでおくほうがいいか。

・変化を活かす

「変化を活かす」というのは、仕事、家、パートナーといった具体的なもののことではなく、転機を通して自覚できた、自分の対応力や処理能力、克服する能力などのことである。

 

転機をうまく切り抜けて、変化を有効に活かしている人たちの話を聞いていると、成功の背景にはいくつかの特徴が見られる。
それは、豊富な「選択肢」、豊かな「知識」、それに「主体性」である。

 

 

3.ビジネスマン・ビジネスウーマンにとっての意味

みなさんには、シュロスバーグが「戦略」「戦列」という言葉を使っていることに注目していただきたいと思います。

 

「戦略」「戦列」という言葉は、どんなときに使うでしょうか?
自分を主体的に考えるとき、使う言葉ではないでしょうか。
それこそが、シュロスバーグが伝えたかったことだと思います。

 

また、シュロスバーグは「期待していなかったものが起こらなかった」ものも「転機」の一つに挙げています。

 

みなさんも、昇進しなかった、転勤しなかった、試験に合格しなかったなどの経験を持っていますよね。
このことも、転機なのです。

 

そうすると、転機を転機として認識するということは非常に重要ですよね。
転機と認識しないと、対処法など思い描くことはないと思うからです。
このこともシュロスバーグが伝えたかったことではないかと思います。

 

 

ビジネスマンやビジネスウーマンにとって、自分を取り巻く環境は日々変わっていきます。
また、自分の能力も変わっていくのです。

 

そんな変化を、私たちは漠然と考え、要素別に点検するなどといったことは行いません。
シュロスバーグは転機に遭遇した場合の4つのSの点検をすすめていますが、その心は、そのとき、そのときの確認ではないでしょうか。

 

自分の「資源」を確認するということは、その時々の自分のフォーメーションの確認でもあります。
それは、自分を客観視するということであり、自己理解するということです。
自己理解をしながら、前に向かって進むーシュロスバーグがいちばん言いたかったのは、このことではないかと思います。

 

 

(終わりに)

私たちは、キャリア理論を要約した本からキャリア理論を知ります。
要約した内容は、どれもほとんど変わりません。

 

しかし、それでは、提唱者の気持ちや情熱といったものがわかりません。
ぜひ、実践的なシュロスバーグの原書を読んでいただきたいと思いますが、驚くことに、邦訳された出版物は私が知る限り下記一冊にすぎません。
すばらしい本ですので、ぜひ、シュロスバーグの生の声を聞いてもらいたいと思います。

 

綾小路 亜也

 

 

「選職社会」転機を活かせ―自己分析手法と転機成功事例33(日本マンパワー出版)

原題『overwhelmed』(途方に暮れて)

 

 

その他の参考文献

新版 キャリアの心理学【第2版】―キャリア支援への発達的アプローチ―
(ナカニシヤ出版)P183~

 

『キャリアの心理学』

 

 

新時代のキャリアコンサルティング―キャリア理論・カウンセリング理論の現在と未来
(財団法人 労働政策研究・研修機構)P98~

 

『新時代のキャリアコンサルティング』

 

 

働くひとの心理学―働くこと、キャリアを発達させること、そして生涯発達すること
(ナカニシヤ出版)P59~

 

『働く人の心理学』

 

 

関連記事:転機には通過儀礼が必要と考える人もいます

ブリッジズの転機理論はこちらをご覧ください

『トランジション』ウイリアム・ブリッジズ

 

 

 

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