『謙虚なコンサルティング』は組織心理学と組織開発、経営学の世界で伝説的な存在になっているシャイン教授が書いた、著名な本である。
この本の魅力は、なんと言っても、シャイン教授が自らコンサルティングを行い、そこでの「学び」を成功例、失敗例として紹介していることである。
本には25のケースが紹介されているので、企業や組織にあって問題を抱えている経営者や組織のリーダーには必ず参考になると思う。
この本を、タイトルから、コンサルタントの姿勢のようなものをイメージする人が多いと思うが、勇気をふりしぼって言えば、コンサルティングの考え方、方法が書かれている本と考えるとわかりやすい。
本には「How to Provide Real Help Faster」という副題がついている。
直訳すると「本当の支援を早く提供する方法」ということになるが、「real help」そして「faster」という言葉が本のポイントになっている。
一般的に、企業や組織向けのコンサルティングといえば、私たちはどんなことを思い浮かべるだろうか?
膨大な分析資料、膨大な時間、評価されることへの緊張感ではないだろうか。
実際にコンサルタントが入った経験を持つ人は、コンサルタントを迎える体制づくりがたいへんだったことを思い返すはずである。
シャイン教授は、このように私たちが思い浮かべるコンサルティングは、「問題点がはっきりしていて技術で解決できる場合は(役割を)うまく果たせるかもしれない」と述べている。
しかし、ものごと、そう簡単ではなく、実際には「問題が何であるかが曖昧」な場合が多い。
従来のコンサルティングは、企業や組織から提起された問題に基づいて、膨大な分析と、診断および提案が行われるが、もし本当の問題がそこになかったならば、どういうことになるのだろう?
また、「考えるまでが仕事であって実行の責任は持たない」ということも多いかと思う。
シャイン教授は、コンサルタントの最も重要なことは、「クライアントが本当の懸念や本当の考えを知り、理解できるようにすること」だと述べている。
この本当の懸念や本当の考えを知り、クライアントと一緒に問題にあたることが、謙虚なコンサルティングの姿勢なのだ。
なぜ謙虚なコンサルティングと呼ぶかといえば、シャイン教授の言葉を借りれば、前進しようとするときにクライアントがぶつかる問題や困難の複雑さに畏敬の念を抱いているからである。
だが、クライアントと「取引上の、お役所的な、ほどほどの距離を保った関係」では、本当の懸念や本当の考えを知り、理解できるようにはならない。
クライアントとの関係を個人的なものにしなければならない。シャイン教授はその関係をレベル2の関係と称している。
レベル2をめざそうとするなら、「もう少しご説明いただけますか」「文化調査をしたいのはなぜですか」「あなたのお考えはどのようなものでしょうか」「どういう意味で『文化』とおっしゃっていますか」「なぜ私に電話することにしたのですか」などと尋ねることになる。
それは、信頼とクライアントの率直さを生み出すからである。
この本にはもう一つ、「アダプティブ・ムーヴ」という重要な概念が記載されている。
「アダプティブ」「ムーヴ」とも、言葉に意味がある。
「アダプテイブ」と呼ぶのは、問題に対する解決策ではなく、状況を改善したり、次のムーブへつながるより診断的なデータを引き出したりすることを目的とした行動だからである。
「ムーヴ」と呼ぶのは、壮大な計画でも大規模な介入でもなく、状況を改善するためのちょっとした取り組みだからである。
本のなかで、シャイン教授は「内容に関して、実行可能かつ有用な提案を外部の支援者が考えつく可能性は、私の見る限り、きわめて低い」「支援者はクライアント自身ではないので、どんなことをすればクライアントの文化でうまくいくのか答えを見つけることはまずできない。一方で、クライアントが求めるものがわかったら、支援者とクライアントは力を合わせてアダプティブ・ムーヴを探せるようないなる」と、核心に迫ることを述べている。
さて、そもそも、なぜクライアントはコンサルタントに依頼するのだろうか?
それは、分厚い報告書がほしいわけではなく、支援してもらいたいからである。
従来のコンサルティングは、分析することを目的とするかのごとく、分析・診断に時間を要した。
それで、分厚い報告書が実現不可能ということなら、依頼した意味がまったくないどころか、時間と費用のムダということになる。
ここで、本の副題に書かれていた「real help」と「faster」という言葉が浮かびあがる。
クライアントの本当の懸念や本当の考えを知らなければ、本当の支援に結びつかないし、ムダな時間がかかってしまうのだ。
しかし、クライアントの本当の懸念や本当の考えを知ることができれば、「一手」である「アダプティブ・ムーヴ」を打つことができる。
それは、問題により早く対処できることを意味している。
この本は、コンサルティングの姿勢について書かれているが、この本から会社や組織のリーダーが学ぶべきものはあまりにも多い。
一つは、提起された問題と本当の問題は異なることが多いということだ。支援を求める人からすれば「本当に助けてもらいたいのは、そこではないんだ!」ということになる。
二つ目は、シャイン教授が体験してわかったことだが、「組織は、その組織の文化と調和することしか実行できない」ということだ。
従来型のコンサルティングの報告書が紙と化したのは、ここに原因があったのかもしれない。
注意しなければならないことは、会社には会社の、組織には組織の文化があるということだ。会社や組織を束ねる人は、このことを頭の隅に置いておいたほうがいいと思う。
三つ目は、「アダプティブ・ムーヴ」である。
私たちは改革という言葉を好むし、改善といえば壮大なプランを描きがちだ。
しかし、あまり壮大なプランを描くと、結局、手つかずなまま終わることが多い。
また、壮大なプランに取り組んでいるうちに、さらに状況を悪化させてしまうことも多い。
そこには、状況を改善する「ちょっとした取り組み」、つまり「アダプティブ・ムーヴ」が必要なのだ。
そして、次なる一手、次なる一手を考え打ち続けることが、状況を改善することなのだ。
『謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か』
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