部下に隙を見せる

2018.08.10記事を更新しました。

「部下に隙を見せるな」という言葉を聞いた人は多いと思うが、組織運営のコツは「部下に隙を見せる」ことであると思っている。
もちろん、年がら年中、隙を見せろと言っているのではない。
時々は隙を見せないと、部下の本当の思い、声、相談を拾えないということを言いたいのだ。

 

実は、かっての私の上司に「隙の達人」がいた。
私が管理職となったとき、その人が率いる部に配属された。
その人は、5時を過ぎると、「おい、帰るぞ」とフロアー全体に響き渡るように叫んだ。
その人を見ると、すでに帰る身支度を整えているではないか。鞄やコートまで抱えている。
だが、その人は帰らない。
古参の課長の横に行っては、冗談を言ったり、ふざけあったりしている。

 

その瞬間からである!
隣の課長から「部長、ちょっとよろしいでしょうか」と相談が始まり、違う課の職員は「承認が欲しいのですが」とその部長がいる場所に向かう。
私も、ちょっと判断に迷うケースの相談は、「この時間」を利用することになった。
この部長のことを思い出していると、仕事の後の宴席や一杯の場で、ふざけたことばかり言っている上司もいた。

 

さて、問題はここからである。
どんな研修でも「部下の話をよく聞きなさい」と言う。あるいは、部下と接するには、「傾聴の姿勢が大事」と言われる。
それはそのとおりだが、いかにも「さあ、あなたの話を聞きますよ」という顔をされ、落ち着いた態度をとられた場合、部下は本当に心の思いを話すだろうか?
また、いつも冷静で、取り澄ました人が、酒が入った懇親会を企画しても、部下たちは本当のことを言うだろうか。
この人たちが企画する一杯の場は、整然とした、話し合いの場であることは容易に想像できる。
そして、この人たちは、かならず言うのだ。「私は部下に気を使っている。部下の話はよく聞いている。ときには、酒も必要と思って懇親の場も開いている。部下の本当の声、考えを聞くためだ。」
たしかに、満点の答案のように思えるが、そんなことで、部下は自分の本当の思いを話すだろうか。
この人たちが企画する飲み会は、どこまで行っても、やはり堅苦しいのではないだろうか。

 

わたしは、部下が心を開く瞬間というものは、上司に隙があるときだと思っている。
上司がおっちょこちょいのことをやる。部下たちはくすくす笑う。
こんな上司は、朝から晩まで、自分の失敗ばかり話している。
「オレ、朝、駅に着いたら定期券を忘れてさあ、そこで小銭を探そうと思ったら、財布に1万円札しかなかったんだ。新聞を買ってくずそうと思ったが、さすがに気が引けるだろ。だからコンビニでこれを買ったんだ。だが、切符を買うとき、よく自動発券機を見てみたら、1万円札でも買えるんだな」と話す。
部下たちは「そんなことも知らなかったのか」と笑うし、定期券を忘れた部長の表情まで想像できる。

 

それを、部下に隙を見せまいと思い、もっともらしいことを言う上司のことを、部下たちはどう思うだろうか。
確実に言えることは、そんな隙を見せまいとする人は、冗談を言ったりふざけたりする人が嫌いだということだ。
この人たちは、たとえ飲み会の場であったとしても、「もっと、真面目にやれ」と心の中で叫んでいたり、仮に部下がそういう行動をとると叱責する。

 

正直、この問題は人のキャパシティーの問題であり、性格の問題でもある。
しかし、一般論で言って、おもしろい人の方が、おもしろくない人より好かれるに決まっている。
企業や組織のトップの人と会ってみると、その人のおもしろさに惹かれることが多い。企業や組織のトップというと、厳格なイメージを持つが、意外に、誰でも入り込める隙みたいなものを感じからだ。
そんな「何か」を持っている

 

組織の上に立つ人は、とかく「自分は、こういう手続きを踏んでいる」と言いたがるが、本当にそうかということを、ぜひ考えてもらいたい。
「自分は、部下の話や人の話をよく聞いている。ミーティングも実施し、極力みんなの意見をくみ上げるようにしている。一杯の席も多い。飲みニケーションだ」という組織の長がいたならば、それは、たいへん結構なことだが、問題なのは、その場の空気、雰囲気なのだ。
ここをよく考えてもらいたい。
重要なことは、部下たちが、本当に心を開いている場になっているかということだ。
隙を見せまいと考える人たちが嫌う、ちょっと冗談交じりの雰囲気の方が、本音が出るのである。

 

 

 

 

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