2022.08.14更新
パンを買って帰ってこんなに喜ばれたことはない。
ペリカンのパンだったからだ。
家族から「ペリカンのパンを買ってきてよ。田原町に近くにあるらしいよ」と聞いていた。
それが、どうやら頭の隅に残っていたらしい。
銀座線田原町を降り、地上に出た瞬間から、「パンのペリカン」を捜していた。
すると、下町のどこにでもあるような古いビルの横壁に「パンのペリカン」という看板があるではないか。
引き込まれるように、店に入った。
店に入って驚いた。
ショーケースがない。菓子パンやカレーパンもない。
壁際の棚に食パンが差し込まれているだけだ。
よく見ると、ロールパンが反対側の壁にビニール袋に入って吊ってある。
それだけだ。まるでパンの工場に入ってしまったような感覚だ。
食パン2斤を買った。残念ながら壁に吊ってあったロールパンは予約客のもので、売り切れだった。
その食パンを家に持ち帰り、その食パンに「ワー」と叫ばれたのだ。
食べてみた。
瞬間、「パンの皮がおいしい!」と感じた。
やわらかい。やわらかいから白い生地部分と一体なのだ。
「パンは、皮と白い生地が一体のものなんだ」と思った。
白い生地部分にも、モチモチ感がある。
きっと、材料が凝縮しているのだろう。
「パンのペリカン」は当初は、他の店と同じようにジャムパンやクリームパンなども作っていたという。
しかし、すぐに喫茶店で出すパンを並行して作るようになった。
昭和30年代に近くにパン屋が次々にでき、飽和状態になったのを機に、人と争うのが嫌いな店主が、菓子パン類をやめ、喫茶店やホテルに卸すのを中心に、食パン、ロールパン、バンズだけに絞ったのだ。
そのスタイルがいまも続いている。
私のブログの読者のほとんどは、ビジネスマンの方だと思うので、少しコメントしておきたい。
「パンのペリカン」は、クチコミで広がっていったのだと思う。
昭和24年の創業当時から喫茶店向けのパンを作っていたというところがキーだ。
創業当時から業務用の高品質のパンを作っていたことが「パンのペリカン」のコアコンピタンスとなった。
そして競合状態を避け菓子パン類を作らなかったことにより、コアコンピタンスのみが残ったのだと思う。
そんな高品質の商品が、クチコミで広まらないわけがなかったのだ。
たぶん、喫茶店のお客さんが「このパンおいしいね。どこで作ったパン?」などと喫茶店のマスターに聞いたことが始まりではなかったかと、想像している。
やはり、売れるには、原因があるのだ。
私が買った食パン2斤の値段は760円だった。普通の店に比べるとかなり高いのではないだろうか。しかし、この値段こそが、「パンのペリカン」の歴史と強みを物語っている。
「パンのペリカン」
〒111-0042 東京都台東区寿4-7-4
https://www.bakerpelican.com/
4代目店主である渡辺陸氏が書いた本がある。