第26話 浅草しぐさ

『浅草のおかあさん』第26話 浅草しぐさ  から

 

 

浅草の子供たちは、寿司の出前をとってみんなで食べるとき、イカやタコ、鮪の赤身など無難なところから手を出していく。
その結果、いつも寿司桶にはトロやウニが残ってしまう。
おかあさんから「食べな」と言われると、「おかあさんが食べなよ」と言い返す。
縁日でも、金魚すくいで遊び、そのうえハッカパイプなどをおかあさんに買ってもらうと、ヨーヨーが入った水槽が目に留まっても、そんなものは関心がないとばかりに素通りする。

 

 

浅草には、おかあさんにまで、自分の本当の気持ちを伝えられない子供たちがいる。
浅草の子供たちは、食べるときも、一番おいしいものはおかあさんに食べてもらいたいと思うし、おかあさんに物を買ってもらうときも、なるべくおかあさんの負担にならないように考える。
おかあさんたちは、おかあさんたちで、自分の好きなものは自分の口に入れずに、子供たちに食べさせたいと思う。また、いろいろな理屈をひねり出しては、子供たちに物を買ってあげたいと思っている。
だから、浅草中で、「食べな」「おかあさんこそ食べなよ」、「買ってあげようか」「いいよ」といった問答が繰り返されている。
これは、きっと「浅草しぐさ」といったものなのだろう。

 

 

「浅草のおかあさん」は、自分の本心を伝えることができない浅草の子供たちを、たまらなく好きだった。
浅草のおかあさんと浅草の子供たち。―そこには運命的な出逢いようなものがあったと思えてならない。

 

 

『浅草のおかあさん』目次

「浅草のおかあさんの舞台を訪ねて」(画像集)

 

 

 

すしや通りにある「寿司清」

 

 

 

浅草に「浅草のおかあさん」と呼ばれた女性がいました

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2018年4月22日