『男の作法』

男の作法 (新潮文庫)

池波 正太郎

新潮社 1984-11-27

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私がこの本を読んだキッカケは、以前に『仕事のマナー 100の鉄則』を紹介したからである。
私は、『仕事のマナー 100の鉄則』を紹介していたときに、頭をかすめたものがある。
それは、「実際の『作法』では、本当のところどうなのだろうか?」ということであった。
ところが、マナーを辞書で引くとたいがい「礼儀。作法。」と載っている。
しかし、多くの日本人の感覚としては、マナー=作法と思っていないのではないだろうか。
「作法」という言葉の響きには、本来の姿、美しい立ち振る舞いのような意味合いがあると思っているのではないだろうか。
そして、私は「マナー」という言葉は「礼儀」に置き換えてもいい言葉、「作法」はそれとは別の意味合いを強く感じている一人である。

 

さて、この本は文庫本である。
また、この本の背景は昭和56年ころのものである。
この本を読むと、さすがに背景の古さは感じるが、それにもかかわらず平成26年末に、93刷版が出ている。
ということは、時代背景はかなり古いが、そんなことをものともせずに読まれ続けていることになる。
それは、多くの読者は、私と同じように、「作法」はマナーとは別のものであると考えているからではないだろうか。
また、「型でがっちり固定されたマナーって本当なの?」と思っている人が多いからではないだろうか。

 

この本で取り上げられている作法の範囲は広い。
食べ方の話があるかと思えば、着方もある。また人事、組織、退職金なんていう見出しもある。
また、年賀状、チップ、贈り物,心遣いなんて見出しもある。
これは、考えてみれば納得できるのである。
「礼儀」というと、その場面、場面が浮かぶが、「作法」はもっと、もっと広いはずだからである。多分、日常生活のすべてが対象になるからだと思う。
そして、時代背景は古いかもしれないがビジネスパーソンの胸にグサッとする内容も盛りだくさんにある。
参考となる箇所を紹介したい。

 

「組織」(P28~)
長嶋選手と川上監督の比較をしている。
「だから彼の場合(注 長嶋選手)、他の人間も自分と同じようにできると感覚的に思っちゃうところが困るんだね。努力の道程というものがわからない。努力というものは短時間のうちに実を結ばないということがわからないんだ」

 

「人間という生きものは矛盾の塊りなんだよ。死ぬがために生まれてきて、死ぬがために毎日飯を食って……そうでしょう、こんな矛盾の存在というものはないんだ。そういう矛盾だらけの人間が形成している社会もまた矛盾の社会なんだよ。すべてが。」

 

「勝負」(P31~)
「だけど、ただ理屈でもって全部割り切ってしまおうとすれば、もともと矛盾の存在である人間がつくっている社会の苦痛とか、苦悩とか、苦悶とか、傷痕とかというのはひろがるばかりなんだよ」

 

「ズボン」(P56~)
「身だしなみとか、おしゃれというのは、男の場合、人に見せるということもあるだろうけども、やはり自分のためにやるんだね。根本的には、自分の気分を引き締めるためですよ」

 

「眼鏡」(P69~)
「それから、持ちものというのは、やはり自分の職業、年齢、服装に合ったものでないとおかしい」

 

「本」(P72~)
「日本人というのは感覚の国民だから、理屈の国民じゃないんだから……」

 

「約束」(P102~)
「この『時間』の問題というのは、もう一つ大事なことがある。それは、自分の人生が一つであると同時に、他人の人生も一つであるということだ」

 

「チップ」(P135~)
「サービス料がある場合はチップはいらないというのは、これは理屈です。だけどね、こういうことを言うとまた誤解されるかもわからないが、かたちに出さなきゃわからないんだよ、気持ちというのは。」

 

「つま楊枝」(P154~)
「人間というのは自分のことがわからないんだよ、あんまり。そのかわり他人のことはわかるんですよ。第三者の眼から見ているから」

 

「本屋」(P187~)
「……さりとて神経が太いばかりだったら、何ごともだめなんだよ。太いばかりだと馬鹿になっちゃう。隅から隅までよく回る、細かい神経と当時に、それをすぐ転換できて、そういうことを忘れる太い神経も持っていないとね。両方、併せ持っていないと人間はだめです」

 

「月給袋」(P215~)
「……だけと、理屈というものでは絶対、人間の世の中というのは渡れないんだ。なぜかというと、人間そのものが理論的に成立しているものじゃないんだから」

 

どうだろうか? 少しはイメージをつかんでいただいただろうか。
私は、この本を読んで、日本人は、理屈ではなく感覚を大切にしているということがわかったような気がした。しかし、同時に感覚的ではあるが、決してかしこまった理ではないが、物や人の本来の姿を考える理というものが存在していることもわかったような気がした。
しかし、現在横行しているものは、一歩でも本質に近づこうという理である。
また、みなさんがよく読まれるビジネス書も、それが大半となっている。
竹田恒泰氏の言葉を借りれば「目標そのものの妥当性を問わない目的合理性の成功哲学」(書評『日本人が一生使える勉強法』参照)を追い求めている。
私は、それは決して意味がないとは言わないが、そうした理を追い求めていくことは、日本のビジネス社会において、コンサルティング業務などの特定業種を除き、果たして本当に上手くいくのか疑問に思っている。
それよりは、日本人というものは、感覚的ではあるが、理の背景にある奥深いものを求めているような気がするからである。

 

また、現在説かれているビジネスマナーについても、非常に形式的、表面的なものとなっていると私は思うのである。
長い間ビジネスマンを経験してきた私からすれば、おそらく、ビジネスマナーの本やセミナーで取り上げられている内容で、致命的な失敗になることは、ないと思うのである。
お辞儀の角度や、訪問のときの態度でもちろん失礼はあってはならないが、そこで致命的になることはないと思うのである。
それよりは、ビジネスマナーやセミナーで取り上げられていない部分で致命的になっているのではないかと思うのである。
その部分を上手く表現することは難しいが、人としてのいやらしを感じさせるとき、本当の気遣いが見えないとき、背景に自分勝手が見え隠れするとき、人の感情部分にに立ち入ったとき………こんなときに、人は致命的になるのではないだろうか。
それは、思い切って表現するならば、「作法」になっていないからではないだろうか?

 

 

 

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2015年2月7日