第24話 浅草の洋食

コートを着る季節になると思い出すことがある。
風邪をひいたとき、おかあさんが出前をとってくれた浅草の洋食屋さんのことである。

浅草には、「洋食」あるいは「キッチン」という言葉がものすごく合っている。
「洋食」「キッチン」という言葉は、体裁より中身に重点を置いた言葉だから、浅草にピッタリ合っているのだ。

浅草の洋食屋には、「ヨシカミ」や「アリゾナキッチン」のような有名な店でなく、もっぱら地元の人を相手にしている店もある。
その一つに「フナキ」があった。「フナキ」は雷門通りに面した精肉店の「松喜」の角を折れ、浅草通りにぶつかる手前にあった。テレビで有名になった「うなぎ色川」の一軒隔てた場所にあったといえばイメージできると思う。

 

「フナキ」の出前に助けられたおかあさんたちは多い。
おかあさんたちは、子供が風邪をひいたり、熱をだしたりすると、「フナキ」に出前を頼んだ。
当時は出前を頼むということは贅沢だったから、おかあさんたちには、「フナキ」に出前を頼むことにより、子供に喜んでもらい、早くよくなってもらいたいという願いがあった。
おかあさんたちの気持ちに応えて、「フナキ」のやさしい奥さんが、カツどん一つでも嫌な顔ひとつ見せずに持ってきてくれた。

 

浅草のおかあさん
第24話 浅草の洋食 から

 

「フナキ」は、うなぎ「色川」の一軒隔てた所にあった。

 

浅草には洋食という看板が合っている。(写真は「ぱいち」)

 

心に残り続ける昭和のおかあさん
浅草のおかあさん

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第24話 浅草の洋食
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