第15話 おかあさんたちの夏休みの宿題

夏の最後におかあさんと子供が取り組むものといえば、夏休みの宿題である。

おかあさんたちは、最初は子供と一緒になって、「さあ、よく考えてみて」などと声をかけ問題に取り組もうとする。
しかし、ここは浅草である。おかあさんたちが宿題に地道に取り組もうとする姿は、どこか商売の街浅草のリズムとテンポに合っていなかった。
その結果、最初に面倒くさくなってしまうのは、おかあさんたちだった。

そんなとき、おにいちゃんやおねえちゃんが、下の兄弟に向かって「なんでいままでやらなかったの?」などと問題の核心を突くと、おかあさんたちはカーっと頭に血が上り、一番下の子供ではなく、そう言ったおにいちゃんや、おねえちゃんを叱り飛ばす。

こうなったら、夏休みの宿題の目的は完全に消え失せる。誰がどう考えても、浅草の子供たちには宿題を出さない方がいいとは思うが、そうとも言えないものが夏休みの宿題にはある。
夏休みの宿題は、子供の頭にも、親の頭にも残るからだ。子供は夏休みの宿題という言葉を聞くたびに親を思い出し、親はその言葉を聞くと、幼かったときの子供を思い出す。

 

「浅草のおかあさん」は、夏休みの宿題で出遅れてしまった子供たちを集めた。
夏休みの宿題で一番時間を要するものといったら、工作だ。
宿題の追い込み態勢に移った家が、松屋デパートで買ってきた材料でトンカンやっていたとき、浅草のおかあさんは子供たちに厚手の箱を集めさせた。
ハムが入っていた贈答品の箱が一番厚手だった。浅草のおかあさんはその箱で、子供たちと一緒に「郵便入れ」を作った。
「郵便入れ」といっても、手紙やはがきを差し込み、机上に置けるだけの簡単なものだったので、制作時間は一時間とかからなかった。
だが、これは学校の先生に受けた。まさに、あるものを利用して作ったという宿題の模範例だったからだ。

 

浅草のおかあさん
第15話 おかあさんたちの夏休みの宿題 から

 

工作の材料を「松屋デパート」に買いに行った。

 

心に残り続ける昭和のおかあさん
浅草のおかあさん

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第15話 おかあさんたちの夏休みの宿題
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